【その心の蕩揺を・1】
何故、という思いが渦巻いていた。
何故黙っていたのか
何故ああも落ち着いて受け入れられるのか
恐ろしくないのか
後悔は
生きたいと望まないのか
死にたくないと思わないのか
私とは違うのか――
そう思考を閉ざしかけた刹那、彼女の様子が脳裏を過った。
「…違う」
足を止め、彼女が休む部屋の方を振り仰ぐ。
彼女は自身の死の運命を受け入れていた。取り乱すことも、後悔を滲ませることもなく、静かに語っていた。
泰然とした様子は立派なものだと思う。
だが―
彼女の瞳は暗く沈んでいた。かつてのような澄んだ輝きはそこに無かった。
いつからかと記憶を探り、私を牢から出す時には既にあの色だったと確信する。
どのような苦境に立たされても光を失わなかった瞳がああも翳るのは、何故か。
「諦めているのか…!」
これ以上望むことはできないと言っていた。望まないではなく、望むことはできないと。
ならば彼女の中にも生への渇望が残っている筈だ、それを自覚させれば――
「…?」
何故、私は彼女が生を望むように仕向けようとしているのか。
彼女の死は大陸からすれば痛手となろうが、私個人としては失うものはない。一人旅に戻るだけだ。
それだけの筈だが、胸の奥で燻る"これ"は何だ。
何故このような気分になる―!
「ミトス、楽に死ねると思うな」
私をこの大陸に連れ戻したのだ。易々と死なれては困る。
せめて生き足掻く様を見せてみろ。