#羅小黒戦記 の長めの感想、そういえばぜんぜん書いてないなと思ったので、今さらな気はしつつ、書いてみます。
すでにいろんな人に言い尽くされていますし、新鮮味はないです。が、長いです。
※劇場版終盤の展開を含みます。ご了承ください。
全体に好きなのですが、推しキャラはムゲンです。
圧倒的ムゲン派、しかし櫻井孝宏の声帯で日本語を喋るフーシーにじわじわやられつつある、というスタンスです。
劇場で見直したら、あらためて花澤シャオヘイにもやられ直しました。あんなん可愛すぎます。
webアニメ、藍渓鎮、履修しました。
ムゲンとシャオヘイの師弟が好きな人は、webアニメを28話まで履修することをお勧めします。エモエモのエモがダイレクトにヒットして、えっ、こんなん……もう許してください、無理、無理です! ってなります(なった)。
●全体に思うこと
社会的弱者への目線が行き届いてるなぁ、って思います。
避難活動で、「取り残されている人を救え」ミッションがあって、情報にアクセスできていない人々をシュッシュッと安全圏に転送するじゃないですか。
路上生活者とか、おそらく自分では動けない高齢者とかを拾ってる景色がありますよね。ここまで想到できるぬかりなさ、やさしさに、感じ入りました。まさに、感服つかまつった……って感じ……。
人口密度が高い場所での大規模アクションって、いやそのビルの中にいる人たちは……が、
1)ビルの中に人がいるかどうかなど知るかボケ、派手に崩れろヒャッハー!
2)ビルの中にも人がいて、かれらの生活が……あったのだ……。
かのどっちかが多くなりがちな印象(わたしの感覚では前者が多い)ですが、この作品世界では
3)ビルの中にいる人もだ! 可能な限り、全員救うぞ
という展開で、しかもそこで具体的に映し出されるのが、前述のような人々です。
こんなん惚れるでしょ。
●フーシーと仲間たち
では、フーシー一派をはじめとする妖精たちは、社会的弱者ではないのか?
かれらに救われる道はなかったのかというと、用意はされているんですよ。会館が定めたルールに従えば、ちゃんとできるようになっている。会館も全能ではありませんが、補助は手厚い印象です(webアニメ参照)。
ムゲンへの敵意を隠さずに執行人をやっている妖精が、当然のように描写されている程度には「人間嫌いのまま、生きていてもいい」方針です。ただルールを守りさえすれば。
フーシーはそれが我慢できなかったわけですけどね。
彼の選択を見守りながら、どうしても数年前に書いた自作小説の
「誇りで生きることはできない。だが、誇りのために死ぬことはできるのだ」
というフレーズを連想せずにはおれませんでした。
(コピペしたわけではないので、原文と差異があるかもしれません)
誇りのために賭けるものが自分の命だけではなかったことが、フーシーの過ちといえばいえるでしょうが、時代の流れに逆らうような大事をなす以上、他人の命も賭ける勝負に出るくらいは当然のことです。
フーシーはそれを覚悟してるわけです。
覚悟した上で、小黒に、優しくしてくれたのはそのためなの? と問われると、即答できないのが、むしろ彼の甘いところですよね。甘いからいいんだよ。反論はご自由になさってください、だが我は聞く耳を持たぬ!
劇場版、最初に観てから数日後、不意に、あっ、冒頭で小黒を追い詰めてた人たちの目って死んでたよな? えっ、あれって地下鉄で操られてた人たちと同じ描写だよね? と気づいたときの衝撃たるや。
つまり、フーシーは「暴漢役」を手配した上で、颯爽とシャオヘイを救うヒーローとしてあらわれて、最初からもう抱き込む気満々で、「おいで」をしていたわけですよね……。
そんなことしなくてもシャオヘイはたぶん懐くのになぁ、と思うと、「そうしなければならないだろう」と思い込んでしまったフーシー……。
フーシィィィィィィ! ってなりますね。なる。
孤島組も、フーシーの「シャオヘイの能力を奪って(殺して)でも成就させる」という決意まで、事前に把握していたのは、おそらくシューファイだけなんだろうなという描写がまた……ぐっときますね。
あの場面で全員が納得していなかったことで、観客としてそれを俯瞰していたわたしは救われたんですよ……。
あそこで誰も止めてくれなかったら、シャオヘイまじ絶望じゃないですか。
ロジュが、必死に叫んでフーシーを止めようとしてくれたの、だから救われたけど、ほんと辛かった。
彼は犠牲なしに成し遂げられると信じていた、少なくとも迎え入れたばかりの小さい人を騙し討ちにするような真似は絶対に許せなかったわけで、そんなのもう、甘甘の甘なんですけど、甘いからいいんですよ!
そうやって、「ひとりずつの思惑の違い」がきちんと描かれているのもいいですよね。
●ムゲン派遣の理由
ずーっと気になっているのが、「なぜムゲンはフーシーを捕縛しようとしていたのか」についてです。
なんでそんなことを考えるかというと、あそこでムゲンが来ていなければ、シャオヘイはまんまとフーシーの思惑通りに領界を発動させていただろうと思うからです。
(ただし、発動後にフーシーが思うような妖精の楽園がきちんと運営できるかというと、それは難しいんじゃないかなーとは思います。400年前の藍渓鎮が安定して運営されているのは、ひとえにトップである老君が「ほとんどものにこだわらないレベルまで達観している」ご長寿きわまれりの特殊な存在だからで、シャオヘイが同じように運営できるとはとても考えられません。フーシーであっても然り。だってスイートですからね、彼)
(さらにいうと、フーシーが「領界の能力があれば、妖精専用藍渓鎮を作れるのでは?」的な考えに至ったのは、そもそも藍渓鎮があるからではないか、とも推測できます)
ムゲンの襲来は、あきらかにポイントオブノーリターンなのですが、その一手を打つことができた会館は、どんな情報を握って捕縛に動いたのか? は、謎のままのように思えます。
シャオヘイのムゲンへの質問は、完全にスルーされています。
こういう悪いことをしたから捕まえる、と具体的に説明しない。
シャオヘイは、キュウ爺にも同じくフーシーについて質問していますが、これに関しては
「フーシーは、たまにとんでもないことをやらかす」
と、非常に曖昧な答えです。
たまにやらかすから、捕まえておこう……って、おかしいでしょう。
具体的に、直近で、会館が動かざるを得ない「なにか」があったと考える方が自然です。
シャオヘイを仲間に引き入れるためのヤラセが問題になった説について、少し考えてみましたが、だったら捕縛されるのはフーシーではなく術者本人でしょう。術者が捕まっていてフーシーの名を主犯として吐いた……となると、終盤の地下鉄戦に参加できなくなる公算が高いので、これもたぶん、ない。
タイミング的にも無理がある……ムゲンが報告を受けて即来ないのも、なんか不思議だけど……報告を受けた場所から転送門までが実は遠い? 緊急性が低いので一晩休んでから行った? 捕らえた食人妖精(web版参照)を会館に送り届けていた? あるいは道に迷った?(あり得る)
とにかく、シャオヘイ勧誘以前になにかをやらかしている可能性が高そうです。……なんだろう?
わたしの想像力では、「妖精の理想郷を作るために協力者を集める」過程で、誘いを受けたが断った妖精がいて、ここでトラブルが発生していた可能性……くらいしか、思いつかないです。
会館のルールでは、同族を傷つけることは禁止なので、お断りからの戦闘を伴う敵対行為に発展していた場合は、そりゃ執行人が行くよねって話にはなりますが……。
あるいは「仲間を集めている」情報だけで、既に「これヤバいよね?」「ヤバいな」「捕まえよう」となった可能性もありますが。
あまりにスルーされ過ぎているので、なにか「この映画には不要なので説明していないが、しっかりした理由が設定されている」可能性もありそうだな、と思います。
●ムゲン
終盤の、シャオヘイが略奪されて以降のムゲンの行動ですが、「フーシーを止める」がサブで、「シャオヘイを救う」がメインの行動原理になってますよね。
最高ですね。
実は、フーシーを止めることを優先した方が、フーシー捕縛→シャオヘイに力を返還させる流れに通じる可能性はあったかもしれないですよね。もちろん、フーシーが力を返却するかっていうと、しないかもね〜な感じですが。
でも、フーシー一派を発見したところで、全員が散開すると、ムゲンは一瞬の迷いもなく「シャオヘイを抱えたシューファイ」を追うし、シューファイがシャオヘイを投げたら、これまた一瞬の迷いもなく「シャオヘイ」を選ぶわけですよ。
シャオヘイには私しかいない、という発言を引くまでもなく、ムゲンはシャオヘイの保護者として行動しているのです。
シャオヘイには類い稀な力があるけど、なにしろ世間慣れしていない、まだ幼いから危険にも疎い、だから守ってやらねばならない。
ムゲンとシャオヘイの長い旅は、自立のための訓練の旅である、という印象です。
ムゲンはシャオヘイに行動の自由はあまり与えないけど(なにしろしょっちゅう自由を奪っている)、思考の自由は与えてるんですよね。むしろ推奨している。
自分で考えろ、(多少なにかあっても)大丈夫だ、私がついている、私が信じる、というスタンスです。
考えるな、俺のいう通りにしていればいい、のフーシーとは真逆なんですよ。
(フーシーの「俺について来い」スタイルは、カリスマ性のあるリーダーには必須のものなので、彼がそういう性格でありつつ仲間を集め、慕われているのは、もちろん納得しかない)
(ムゲンの「自分で考えろ」は徒党を組まないスタイルなので、彼が孤独なのも、そして一方的に慕っているファンがそれなりにいるのも、やぱり納得しかない)
ムゲンみたいな大人になりたいですねー!
わたしはもう半世紀以上生きており、成人後の人生の方が未成年よりずっと長くなってしまいましたが、ムゲンは400歳以上だそうですから!
まだまだ若輩者でとても及びませんね……と、表現しやすいのが助かります。
●シャオヘイ
可愛い。
しっかりしてる。
けっこう兄貴肌というか、自分が前に出て守れるものは守る性質がある。
あんなに可愛い子猫ちゃんなのに!
可愛い!
(語彙がなくなった)
いくらなんでも長いのでこのへんにしますが。
世界情勢が険悪にならず、数年後に公開されるであろう、現在制作中と伝え聞く、MTJJ監督の新作を、我々海と国境を超えた日本人も平和に鑑賞できることを、祈ります。
現実世界には、何百年も生きて我々を見守って陰ながら庇護してくれるスーパー存在がいないですからね……。
落下する車両の保護とか、人々の避難活動とかを眺めて思うのは、ああ、これは「世界がこうあってほしい」という、やさしい祈りなんじゃないかなぁ、ということです。
いやもうマジで。マジで次回作を観たいから、世界! 平和であれ!!!!