都市伝説課 未通過❌
都市伝説課HO1のシナリオ前の話。誤字は許して。文字書きじゃないんだ…
20xx年 xx月xx日
じりじり焼きつけるような太陽を浴びて、憂鬱な気分だと一人胸の中でごちる。暑いとか寒いとか、痛いとか苦しいとか人の身を持って初めて知るものだ。正直煩わしい。こんなに大変なものを持ってして人間というものは生きているのかと「きさらぎ」は思った。早く課に戻って一息つきたいと足を早める。薄汚れたアパートの近くを通った時、男の怒鳴り声が響いたのが聞こえた。ふとそちらに視線をやる。二階立てのアパート。扉の前で誰かが立っているのがわかった。
「あれは………」
じりじりと肌を焦す太陽の光にあたっている。それなのに涼しい顔をしてじっと扉を睨みつけている。なおかつ影がない。怪異の類であることはすぐに理解できた。少し変わった、スーツ姿。シャツの半分が和柄で彩られているのがやけに目につく。こんなところに怪異?あまり都市伝説としての噂は聞かないが…と「きさらぎ」が考えている間にその人物はするりと扉を通り抜けた。それに続くようにして中からは悲鳴が飛び交う。ちらり、と視線は向けるがそのまま通り過ぎた。
20xx年 xx月xx日
「あ、」
後日またあのアパートを訪ねてみることにした「きさらぎ」は真夏の日差しが照りつける中歩みを進めた。目的のアパート前まで来ればやはりいるあの怪異に少し驚きつつも興味がまさった。人にしてはやけに希薄で、怪異にしてはここまで人に近すぎるナニカなのも「きさらぎ」にとっては面白かった。遠くからそれを見る。ソレは203号室と書かれた部屋の前でじ、っとただ眺めている。またその部屋から怒号とそれから子供の小さな悲鳴が響いた。その声を聞いたとたん、またゆっくりと歩み出して扉をすり抜け中に消える。怒号は悲鳴に変わり子供の泣き声はやんだ。
「変わった怪異だな」
「ねぇ、何見てるの?」
「うわ、びっくりしたな。急に話しかけないでよさとる」
「何度も声かけたよ。でも夢中で見てるからきさらぎが気がつかなかっただけでしょ」
「悪かったよ」
「きさらぎ」の持っていたスマートフォンからふいに子供の声がした。画面を見るならば通話中になっており、そこからノイズ混じりの子供の声が響く。「きさらぎ」は一つため息をつくとスマートフォンを耳に当てて電話の向こうの相手へと謝罪の言葉を口にした。
「知らない怪異がいるから面白くてね。観察していたんだよ」
「へぇ〜!どんな見た目してるの?」
「人みたいな感じ。雰囲気も振る舞いも。珍しいと思わない?最初からあんなに人に近い怪異って見たことがないからさ」
「声かけてみれば?」
「え?」
電話口から紡がれた言葉に「きさらぎ」はあっけに取られた。自分が考えていないことを伝えられて処理が一歩遅れる。声をかける?あれに?とぐるぐると先程の「さとる」の言葉が反芻される。ミーンミーンとうるさい蝉の声だけが響き、数十秒遅れてから考えておくよ、とだけ伝えた。向こうから何か言いそうな感じがしたが「あれ?誰かが僕を呼んでるかも?」と言い残し電話はぶつりと途切れることとなる。
明日は声をかけてみよう。
20xx年 xx月xx日
「ねぇ君はここで何をしているんだい?」
蝉の声がうるさい中、「きさらぎ」は203号室前でソレに声をかけた。ただぼんやりと203号室の扉を見つめるだけのソレは「きさらぎ」の声など聞こえていないのか返事をすることはない。汗ひとつかかずに影のないソレは呼吸どころか心臓すら動いていないようだった。人の形だけを取ったようだとどこか俯瞰的にとらえる。光の入らない瞳はただ扉を見つめている。
「ここは君に取って大切な場所なのかな?」
「きさらぎ」は返事を貰おうが貰わないがどちらでも構わなかった。彼にあるのは純粋な興味だけだ。この怪異が一体どういう原理で生まれて、そして何を目的にこの場所にいるのか。それだけが気になっていたからだ。返事をもらえなかった彼は残念がるそぶりも見せずに、また目の前のソレを気にすることもなく203号室の扉に手をかけて開いた。
狭い部屋には一人の子供だけがいた。
食事もろくに取れていないのかひどく痩せ細っていて、扉が空いたことに肩を跳ねさせ振り向いた。期待にこもった瞳を「きさらぎ」へと向けたがそれも一瞬のうちに恐怖へと変わっていく。あ、も小さく声を漏らしたのち腕を顔の前でクロスさせて自分の体を縮こませる。悲鳴をあげそうなのを堪えるように唇を噛んでいるのが目につく。強く噛み締めすぎているのかうっすらと赤い血が滲みその子供の唇を彩る。
「おや、怖がらせちゃったかな?大丈夫。君に危害は加えるつもりはないよ」
「........け...て」
「ん?」
「たすけて、しょくいんさん」
子供が小さく言葉を紡いだ瞬間、ぱちりと小さな音が聞こえた。何かが爆ぜたような音。ぱちぱちとその音は大きさを増していく。「きさらぎ」がハッとして子供の方を見るならば視線は遮られ何か別のものが映り込む。「きさらぎ」の前にはあの怪異がいた。子供を守るように立ちはだかり「きさらぎ」を見下ろしている。感情が読み取れなかった瞳ははっきりと殺意を含め細められた。ぱちり、と一際大きな音が聞こえた。
「隗ヲ繧九」
何かが呟かれたが理解をする前に「きさらぎ」の体は真っ赤な炎に包まれた。ぱちりぱちりと弾ける音と視界に広がった赤に意識はどこか遠くに落ちていった。
20xx年 xx月xx日
「ちょっときさらぎ大丈夫!?」
激しく体を揺すられ「きさらぎ」は目を開ける。ヒュー、と喉から空気が抜けるような音がして声が出ないことに気がついた。目の前がひどくぼやけていて見えない。頭がようやく回り出して自分が炎に包まれたのを最後に記憶が飛んでいることに気がついた。油断していたとはいえまさか生まれたてのような怪異にここまでひどくされるとはな…と一人でごちる。声をかけてきたのはおそらく「御先稲荷」だろう。あいにく目は見えないので声だけで判別する。
「だから人形取っているときは気をつけなさいっていったじゃん〜!!!!!全身やけど!!!!!!あやうく貴方消滅するとこだったんだからね!!!!!!!」
「は、はは……面目.....ない....」
「まぁいいけどさ…ほら、目を覚ましたなら早く「お願い」してよ。じゃないと動けないんだから」
「はいはい、御先稲荷、「治療してもらえるかな?」」
「よしきた!任せなさいな!」
彼女に「きさらぎ」が「お願い」するならばテキパキと体の治療を施してくれる。人の形はとっているが人間とはまた異なった作りだ。「御先稲荷」に治療をしてもらえれば先程のようなひどい火傷は跡形もなくなってしまう。固まった身体がようやく動くようになり「きさらぎ」もソファから起き上がるとようやくきちんと「御先稲荷」の姿を見てから「ありがとう」とお礼を述べた。
「面白いもの見つけんだ。今度君にも紹介してあげるよ」
子供がおもちゃを見つけたときのような表情で「きさらぎ」は笑った。
20xx年 xx月xx日
20xx年 xx月xx日
20xx年 xx月xx日
20xx年 xx月xx日
「雋エ譁ケ縺ッ隱ー?」
繰り返し会いに行った。
何回か燃やされたし、何度話しかけても何も答えなかったソレは唐突に「きさらぎ」へと声をかけた。およそ人の言語ではないことはすぐにわかった。ただそのようなことよりも今まで自我の一つもなかったソレが自分に話しかけていることに驚き、持っていた本を落とした。ばさり、と音がして落ちた本をソレは拾い上げて埃を払うと「きさらぎ」へと渡した。
「驚いた、君話せたのかい?」
「雋エ譁ケ縺ッ隱ー?溯?蛻??菴包シ溘%縺薙??」
「僕はきさらぎ。君はなんなんだろうね」
「蜷榊燕」
「ん?」
「蜷榊燕縺梧ャイ縺励>」
「そう、じゃあ君は」
セミの声がうるさいとおもった。
だから彼が話していることを聞き取れなかった。
なんていったのだろう。
きっとそれは自分の名前だった気がする。
俺の、僕の、私の。
20xx年 xx月xx日
「こら、そうじゃないって言っただろう」
「きさらぎ」は眉を顰めて怒っていた。
何か悪いことをしただろうかと、「閨キ蜩。」は首を傾げた。「きさらぎ」はため息をついてから「閨キ蜩。」の手を取る。ひどく火傷をしているようで皮膚は焼け爛れて赤い肉がのぞいている。ぱちり、と目の前で赤い炎が散った。「きさらぎ」は片手で叩くようにその火の粉を消す。
「こらこら、だからそうじゃないって。深呼吸?して。ほらこう、息吸って」
目の前の「きさらぎ」と同じく、「閨キ蜩。」も息を深く吸い込んでは吐き出す。初めてした行動に何となく頭がすっきりしていくような感覚を「閨キ蜩。」は覚えた。目の前の霞んでいる景色が少しだけ鮮明に見えた。目の前の赤い瞳の化け物もよく見えると。自分についていたものを伸ばして化け物を掴む。またぱちりと音がした。
「痛い痛い痛い、髪の毛掴まないでって。人にしないでよこんなこと。怒られるから」
「縺薙l縺ッ菴包シ」
「髪の毛だって。痛い、離しなさい」
「きさらぎ」に腕を掴まれゆっくりと下に下げられる。ぼんやりと「閨キ蜩。」は言葉を噛み砕いているようにもみえた。痛い、という言葉に反応したようで何か考えるような素振りを見せた。「きさらぎ」はその様子を観察する。自我の獲得があまいな、とぽつりとこぼしてから再度「閨キ蜩。」の手を取りしっかりと視線を合わせる。
「いいかい?人には痛覚がある。無理につかめば相手を傷つける。そこを理解しなさい。君には必要なことだからね」
「縺?i縺ェ縺」
「いらないじゃない。いるの」
20xx年 xx月xx日
「きさらぎ」
聞き馴染みのある言語で名前を呼ばれ「きさらぎ」は顔を上げた。表情の変わらない「閨キ蜩。」はただぼんやりと彼を見ていた。何か用事があったわけではなさそうで名前を呼んだら満足したのか視線を外し、手元の本をまた黙々と読み始めた。呆気に取られたのは「きさらぎ」の方で、珍しく表情を崩して「閨キ蜩。」を見ている。名前を呼ばれるなんて思いもしなかったな、とこぼした。
「そうか、君は随分と…」
言葉を詰まらせたのち、それ以上言葉を紡ぐことはなかった。目の前の「閨キ蜩。」が今後どうなっていくなんて考えても無駄だと「きさらぎ」は思った。決めるのは「閨キ蜩。」なわけであって自分の言葉が変に作用するのはよくないと彼もまた手元の本に視線を落とす。何時間か経った後、いつも時間になれば「閨キ蜩。」は立ち上がり部屋を出ていく。いつも通り203号室に向かったのだろう。
「子育てってこんな気持ちなのかな」
誰もいない部屋で「きさらぎ」の独り言が溢れた。ただの興味本位だったが「閨キ蜩。」は人らしくなってきた。まだまだ乏しいところは多いがそれでもゆっくりと着実に成長してきている。ただの興味から今は人で言う愛や情のようなものを抱いているのだろうと「きさらぎ」は動いてない自分の心臓あたりを撫でた。
20xx年 08月27日
ジジジジッとうるさいセミの声が聞こえるアパートの一室で大人一人、子供一人がいた。室内の温度はゆうに40度は越してそうななか、大人はただ子供を見下ろしていた。どっちがその声をこぼしたなんてわからない。
「いきていてほしかった」
「いきて、いてほしかった」
「くそ!この怪異風情が!舐めた真似しやがって!!ガキは死んだんだろ!お前もとっとと消えちまえ!」
荒々しい足音と共にひどい大人の怒鳴り散らす声が響いた。誰かがこの部屋へと足を踏み入れた。
その後は静寂。セミの声がうるさいくらい聞こえる室内。「閨キ蜩。」はただ子供を見ていた。視線を落として感情の籠らない瞳を向けている。ピクリとも動かない子供は死んでいるのだ。そう理解した瞬間、ぶわりと何かが胸の中から沸き立つのを感じた。それが何なのか理解するよりも早くぱちり、と言う音が聞こえた。
「生きていて欲しかった」
近くにいた大人の声が引き攣ったようなものになる。恐怖が入り混じったそれは「閨キ蜩。」に向けられている。「閨キ蜩。」がゆっくりと振り向く。逆行になっていて顔には影がかかっているのに。「閨キ蜩。」の瞳はきらりと煌めく。いっそ美しいまでのそれは鋭い刃のように男を貫いた。ぱちり、と音がした。足元から段々と淡い色の炎が見えて来る。勢いを増していきこのままならこの部屋全体を火に包み込むまでの勢いへと変わっていく。
ころしてしまおう、と「閨キ蜩。」の頭の中で声が聞こえた。
「 」
「閨キ蜩。」はハッとして顔を上げた。そこは先ほどいた部屋ではなく、どこか寂れた駅のようなところだった。駅のホームのベンチに腰をかけている。真っ暗な空には星ひとつない。隣を見れば「きさらぎ」が座っている。どこか少し焦ったような彼は「閨キ蜩。」が視線を合わせたことに気がつくとホッと息を吐いた。よくよく見てみれば服は煤まみれでひどく火傷をしていることに気がつく。
「ああ、疲れた。見捨てればよかったよ。でもできなかった。どうしてだろうね、前はこんなことなかったのに」
自暴自棄のように「きさらぎ」はつぶやく。「閨キ蜩。」が口を開き何か声をかけようとしてひどい眠気に襲われた。ぐらりと脳が揺さぶられるような自分の存在が書き換えられるような気持ちの悪さを覚える。ついには目を開けていることもできずに閉じてしまった。誰かが「閨キ蜩。」の手を引く。
「噂が変わる。君もまた変わる。僕のことを忘れてもいい。今までのことも。でもあの子供のことだけは覚えていなさい」
そう言ったのは誰だったか。
20xx年 10月
市役所内が酷く騒がしい。当たり前だこんな時期に人を雇い、なおかつあの「都市伝説課」ともなれば周りが騒がないはずはない。
なんだって自分が「都市伝説」にしてしまった子供が配属されるのだから。ソワソワしていたのがわかったのか同僚のきさらぎが「浮かない顔だね」と声をかけてくる。
言葉を返せば彼は薄く笑ってから頭を撫でた。名前も記憶もない自分を面倒を見てくれた彼にそうされれば多少は緊張がほぐれた気がした。
「今日から君は先輩になるわけだ。大丈夫、人として接してあげればいい。君にはそれができるはずさ」
そう言って「きさらぎ」は笑う。
どこかで見たような懐かしさを覚えた。あれはいつのことだっただろう。
外から「御先稲荷」と誰かの話し声がする。意識はそちらに向き、先輩は後輩を出迎えるために背筋を伸ばした。