アベンジャーズ/エンドゲーム、超大作といえど予算は無限ではない中でスター俳優を大量動員して作品を成立させるため、費用を削れる所は削りまくってそれを意識させない脚本がとにかく凄かったので、気づいた点をまとめました。
エンドゲームの内容を振り返ると、実はド派手なバトルシーンがほとんど無かったことに気付きます。
クライマックスで大軍が激突する1回以外は、バトルシーンはホークアイVS真田ヤクザ戦と、キャップVSキャップ戦ぐらいじゃないでしょうか。
しかもラストの大軍激突シーンも尺としてはそこまで長くないし、ホークアイ戦とキャップ戦に至っては1シチュエーションきりのほぼ個人戦(ただし、ホークアイ戦はワンカット長回し風アクション、キャップ戦は“同キャラ対決”と、短いバトルにもかかわらず観客の印象に残る一捻りが周到に施してあるのがさすが)。
さらに、本作は「全生命が半分になってしまった地球」が舞台なのに、地球や街や人々がどうなってしまったのか、崩壊後の様子を大局的に描いたカットがほとんどありません。ひと気のない都市の描写は数カットありますが、実在のビル群のライトを消去した映像をそのまま使っただけ。ホークアイ一家のシーンは人里離れた一軒家だし、ニューアスガルドに至っては漁村でそのままロケしただけです。
その代わりに地球の状況を説明するのは、少人数のキャラクターが狭い部屋の中で会話するシーン。特に前半は、アベンジャーズ本部やグループセラピーの一室など、撮影コストを削りやすいシットコムみたいな場面が大半を占めています。
3時間超のブロックバスター映画として、これはかなり特異な構成です。
シリーズの大団円にふさわしいMCUスターキャラクター総出演を実現するには、俳優のキャスティング費に凄まじいコストをかける必要があり、VFXカットだらけの大規模バトルやランドスケープ描写をたくさん入れるわけにはいかなかったのでしょう。で、バトルシーン無しでも観客を飽きさせずに引き込むアイディアが縦横無尽に張り巡らされているのが本作の脚本のスゴいところだったと思うのです。
本作は、前作「インフィニティ・ウォー」を大きな“起”として考えて、それを受けて“承・転・結”を描く内容になっています。整理するために、本作のストーリーを便宜的にいくつかのブロックに分けて見てみます。
①“承”パート:冒頭からスコット登場まで
②“転”パート:タイム泥棒作戦からサノス再侵略まで
③“結”パート:サノス軍の侵略からサノス撃退&トニーの死亡まで
④“カーテンコール”:スターキャラが勢ぞろいしてエンディングまでの後始末
まずは①“承”パートについて。
オープニングとなる①パートで、金のかかった大スケールの映像の代わりに観客の興味をドライブするのは、「意外性」です。
冒頭あっさりサノスが首チョンパ!頼みの綱の石はぜんぶ壊れてた!さらに時間経過5年!!!???と、観客の予想を裏切りまくるショッキングな展開をスタート直後に固め打ちすることで、一気にストーリーに引き込みます。その後もインテリ化したハルクやメタボ化したソーなどの視覚的な驚きを要所要所に投下してくるので、観客は無数の“予想外”に振り回されているうちにあっという間に①パートが終了します。
続く②パートは、冒頭こそ「あの名場面が再び登場!?」という、①パートに続く「意外性」ドライブから始まりますが、いざタイム泥棒のシークエンスが始まると、後は「ファンサービス」の連打が物語をドライブします。
タイム泥棒の作戦構造自体がひとつの大きなファンサービスなのですが、その中でさらにネットミーム化した名シーンをいじったり、過去作の描写を後出しで“伏線”として回収してしまったり、これまでのシリーズ資産をフル活用することで、バトルシーン無しで十分に間を持たせることができています。この解決法は、長年の積み重ねによってネタの引き出しの絶対数がめちゃくちゃ多いMCUにしか出来ない反則技だと思います。
そして③パートで遂に大規模バトルが始まります。冒頭で触れたようにこのバトルも尺的にはかなりアッサリしているのですが、観客が盛り上がりそうな展開を出し惜しみなしで全力投入してくるので物足りなさはほぼ無し。
(脚本上の重要なイベントは、実は③のトニー死亡でほぼすべて終わっているので、④パートはキャップの最後の選択以外にストーリー的な意外性はないのですが、観客にとっては長年追ってきたキャラクター達が勢ぞろいして最後の別れとなる時間なので、まあ④パートで飽きる人はいませんわな)
ということで、映像面での予算的な制約が大きい中、大団円にふさわしい内容を実現するために、おそらくめちゃくちゃ試行錯誤を重ねた上でスペクタクルシーン無しでも最後まで引っ張れるはず!と踏んだ製作チームの英断と、それを本当に実現させた手腕に脱帽するしかありません。(※一方で、熱心なMCUファンでない人たちは②④パートで退屈する可能性もある)
ハリウッドのブロックバスター映画というと、「大規模な予算でぶん殴ってくるだけ」というステレオタイプなイメージもあったりしますが、「大規模な予算を持った上で、周到なロジックを駆使して作品を作り上げる」人たちがいるのが恐ろしいところだなあ、と思いました。おわり。