Sad end
「私は…そなたを守りたかった。人の悪意から、醜き欲から…。いつかはそなたも欲に振り回されることに疲れ、絶望し、堕ちてしまうのならば、その前に世を変えねばと思ったのだ」
彼女の願いは“誰も悲しむことのない、安らかな世”。
黒き欲を焼き払った理想郷ならば、人々は慎ましくも充足を知り、穏やかに在れる。彼女の願いも果たされる。
気に入ったのならいつまでも居るがいい――この言葉に嘘はない。
居てくれると……居てくれたならと思っていた。と同時に、わかってもいた。彼女は私の理想を拒むと。
だが―
「何故…こうなった…? 何故、そなたは…」
広がる赤の中に膝をつく。その中で横たわる体を仰向かせ、頬に触れた。
「起きろ、ミトス。倒れている暇は無い筈だ」
瞳は虚ろで何も映さず、瞬きすら忘れていた。
「続きをしようではないか。私を止めるのだろう?」
指先に灯る熱がゆっくりと失せていく。
「ミトス…」
彼女が宿していた温もりは一面に広がり、代わりに彼女は――
「否―」
このような結末を導きたかったわけではない。
「断じて否…ッ」
柔らかく優しきその心が二度と悪しき者共に傷付けられぬよう、他者の痛苦に寄り添うその気高さが二度と悲しみに沈まぬよう
「私は……そなたを救いたかった…!」
殺したくなかった。
………殺したく、なかった