習作キ●アガイル これは健全なシメスタ(健全とは?)
唸れ! はいすいのじん
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ゆっくりと深く、不思議と甘くなってゆくキスの合間に、晴は重大なことを思い出した。
「は……あ、ミカド、待って、」
「ん?」
不服そうな声を腹から出しつつ、それでも帝は唇を離して律儀に動きを止める。熱っぽく輝く瞳にじっと見つめられて、頬から火花が出そうだ。今の自分は彼と同じくらい真っ赤な顔をしているに違いない。
「晴お前、ここまできてやめたとか、さすがに言うなよ今日は」
肩をがっちり掴まれたまま、浅い息で一言一言噛んで含めるようにゆっくりと告げられる。この近さには、もう慣れた。彼の目が肉食動物のように怜悧に光って見えるのも、害意などではなくもっと深く触れたいという想いの発露であると憶えた。逞しい腕に抱きしめられて、胸の中がじわりと震える自分がいることも。互い違いに指を絡めて口づけするたびに、身体の一番奥を優しくくすぐられているような気持ちになることも。
「その、ええと……あの、下着が」
「下着?」
何を想像したのか知らないが、真剣な表情で聞き返す帝の顔はさらに赤みを増した。違う、そんなロマンティックな恥じらい溢れる話ではないのだ。
「今日、私、下着、」
上下セットじゃ、なくて。
最後の方は蚊の鳴くような声量しか出なかった。おとこのひとは意外とそういうのを大事にするんだと何かで聞いたような記憶があったから。たとえ今日そういうムードにならなかったとしても、帝の前では全身くまなく油断していない晴でいたかったから。だが、まさかたった一度それを怠ったタイミングで服を脱がされる状況になってしまうなんて。
「ああ、そういう。別に俺は気にしねーよ」
複雑な声音の溜息が返ってくる。自分ばかりが形式的なところで立ち止まっているようで、彼の方が一枚上手であることを見せつけられたようで、少し悔しい。
「むしろそういうのも案外そそるっつったら、お前どうすんだ」
にやにや顔で尋ねられ、思わずデコピンした。
「私は! 気にするの!」
そそるならそそるで、こういうギャップ萌え的なやつは同棲してからとか少し慣れてからのイベントとして取っておきたかったのだが、今日の帝がはいそうですかと引き下がってくれるはずもなく。
「まあでもそれはそれとして、嫌でも、駄目でも、ないんだよな?」
さっきは丸く見開かれていた目は狙いをつけるように細められ、視線だけで肌が焦げてしまいそうだ。俯いた額にまた唇が降ってきて、それに応えることで晴は帝に諾を伝える。
了
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スタイリッシュに一網打尽でござる