個人的ケンアス所感
この二人、もうこれで最後ということをお互いわかってるんだな…とはっきりわかったのが、決戦前のヴンダーピックアップ前日の会話で画面手前二人の間に自転車が置かれて分け隔てる分断の演出がされてたからなんですね。
分断演出はAパートとくにやたら多くて、どれもめちゃくちゃ素晴らしくて大好きなんですけど、彼らの意思も目線も信頼関係も良好で同じなのにそこで分たれてるのは死別の表現で、彼らはお互い「もう会えないかもしれない」じゃなく「絶対にもう会えない」という認識なんですよ。
あそこで流れてた二人の穏やかな間は、14年間ずっと積み重ねて理解しあってきた覚悟と尊重の穏やかさなんですね。
あの二人は、死別することをわかっていてなお14年もあの生活をして親密な仲であったんだと気づいたらもう何も言えなくなりましたよ…
エヴァインフィニティが村の装置にぶつかったときも、戦況がどうなのか詳細はわからないけど村までこういう状況になってたら最前線で戦う彼女がどうなってしまったのかっていうのはもうあの時点でわかってたと思うんです。
それでも目を逸らさずカメラを回し仕事をまっとうし続ける覚悟を、彼はずっとしてきたんですよ。
シンのケンスケの印象って「どこにも行ける人」なんですよね。
彼の仕事は「何でも屋」で村とヴィレとクレーディトの仕事をそれぞれ受け持っていて、どこにも行けるしやっていける器用な人間だなあと思ってて、でもどうしてヴィレとかクレーディトに行かなかったんだろうと思っていました。そっちのほうが性に合ってると思うので。
村の風景見てるとあんまり十代半ばから三十くらいの若い層がいなくて逆にヴンダーには若者が多いの、たぶん意思があってガンガン働けるやつはそのへんに行ってるんだと思いますし。
最高責任者の葛城艦長宛の村の資料や報告書や監視を任されてるあたりヴィレからかなり信頼を置かれているようだし、クレーディトからもL結界の研究の場に行ったときおそらく重要施設だろうにシンジという身元がよくわからないらないあきらかに見ない人間を連れて普通に通せるくらいに信頼されています。
そういう信頼(能力と信用が十分にあるという証左)がある人間は組織の中核で仕事をしていてもおかしくないし、行かなかったということは村に残る選択を自らしているんですが、かといって人をまとめ率いる仕事でもなく、村の中心からだいぶ遠く離れたところに住んでて、人がなかなか来られないというかなんか電車とか浮いてるし崖っぷちだし立地的にもだいぶ不安定なところに家を置いていてやってることが変なんですよね。
サバイバル知識のおかげで頼りになったという話で、彼はすでに「自分に出来ること」を自覚してるはずで、自信とか信頼とか人を率いれる能力を十分獲得しているはずです。
インフラ整備と教師という役職や村の中心人物のトウジの反応からも村側に信頼がないかというとそうとは思えませんし、持ち物としても彼は車を持っていて、重工業が滅んだ世界で、村のミニチュアセットとか見てると車って村に全然なくてソーラーのためにバッテリー抜かれてスクラップになるかで、燃料問題もあるしあの世界で車はおそらく貴重品で、仕事であっても信頼されてる人間じゃなきゃ与えられないものだと思うんですよ。
「やれることを精一杯やる」をすべての人間がやってる世界でそういう半端者で、でもどれも信用がないとできない仕事で、どの組織に対しても中核に属さないのにちゃんと信頼されている。
やれることの多さ=選べた将来の選択肢の数とも思うんですが、どこにでも行けたのに行かず、いくつもあっただろう選択肢の中からどれにも絞らず、彼は村に残って「何でも屋」という曖昧な仕事を自ら選んで真摯にやっているんですよね。
反対にアスカは選択肢がなくなってしまった人なんですよね。
ニアサー以降のアスカの立場ってかなり悪いと思うんですよ。
使徒と融合してるしインパクトの危険性があるからいつでも首飛ばせるようDSSチョーカーを装着しなくちゃいけないし、ヴンダーの部屋にはいつでも始末できるよう爆薬が積まれていて、「恥ずい格好エヴァパイロットだけにしてほしい」「(不満げに)式波少佐はいいですよ」って北上ちゃんから明確な嫌悪があって、最前線で戦って守ってくれてる仲間なのに普通そんなこと言う!?ってかなり驚いたんですけど、彼女はっきり物言う人だけど嫌なやつではない(むしろ恨みを風化させずに抱き続けていられるので情はかなりあるタイプだと思う)のでシンジくんだけじゃなくエヴァパイロットって基本存在が嫌われてるんだな…と思ったんです。
そういうパイロットを恨んだり疎む人間は他のクルーにもいるだろうしおそらく世界に山ほどいるはずで、戦う姿を見てる一部ヴィレクルーですらそうなんだから村の人間にもそういう感情を向ける人がいてもおかしくないんですよね。
加えて使徒を封印してる身なのでさらに当たりは強いはずで、村人はそれは知らないとしても人として曖昧になってしまった肩身の狭さや身体も成長しなくて怪しまれるしそりゃ「村に顔を出せない」
立場がものすごく悪くて人間関係も狭くならざるを得なくて食えない寝れないでストレスフルだし、安まるところもなく虐げられておそらくほとんど自由のない生活を余儀なくされていたと思うんですよ。
ケンスケはそういう選択肢がなくて世界のどこにも安らぎがない人間にただ手を差し伸べる選択をしたんじゃないかと思うんです。
人がいない辺鄙な場所に家を作って、一朝一夕じゃできない能力とか信用をめちゃくちゃな努力をして築いて各組織への信頼を固めるのは、人との物理的距離をとって自分の社会的信用で保証して何にも脅かされず安らげるようアスカの心を守るためと思うと腑に落ちます。
それくらいしか中途半端を選択する理由もその中途半端さをアスカが尊敬を含みながら肯定する理由も思いあたらなかったので…
アスカの背負うものってあまりに業が深すぎてそういうほんのささやかな平穏すらそれくらいやらないとたぶん守れないんだと思うんですよ。
でも、彼女はいつ死んでもおかしくなくて戦場かまたは生き残っても使徒として処分されるかで、近い将来確実に死別するだろうことを理解してるだろうし自分が報われる日はこないとわかってるにもかかわらず、それでも戦うしか選択肢がない人のほんの一瞬の安らぎのためだけに彼は人生をくれてやってる。
彼女が命をかけてるんだから自分の人生くれてやるくらいたぶんどうってことないんだと思うし、それくらい相手の人生にかなり深入りしてる。
そうするとアスカのほうも、彼女にした世界の仕打ちなんてきっと散々なものだったろうにどうしていられない村のために命を懸けてはっきりと「守るところ」と言えるのか、明確な決意のまなざしと「守る」に中身が詰まったのかの納得ができます。
シンジくんが村で生きる仮称アヤナミやトウジやケンスケのフィルターを通して終末を必死に生き抜く人々の世界を見たように、アスカもケンスケというフィルターを通して切実に生きる人々とその日々を見てふりかかった不幸に折り合いをつけて立ち上がることができたのではないかと思うんです。
そうでもないと「守る」なんて言えないしあの表情はしないと思う。酷い目にあってきただろうに…
そしてどちらかが一方的に寄りかかるんじゃなく相手と社会も両方守りあってるのがこの二人しっかりした大人なんですよね。
アスカはあの家にいる態度のすべて彼からの安らぎを受け取っているし、何を言わずとも互いに理解しあっていて、ああいう心の開き方をするし、彼らがそれを積み重ねてきただろうこともわかります。
だからこそお互いのあの妙にある距離は当然とも思います。相手の人生に悪いので
人類を守る責務を背負ってる彼女の最後の覚悟を邪魔しないように、戦士としての彼女も肯定してエゴをぶつけず送り出すし、だからたぶん「式波」って呼んでるんじゃないのかな…
アスカもこの人の人生自分のために使わせたら悪いってさすがに思うでしょう。
あれだけ親密だけど相手を思いやってるがゆえに距離も置く。相手も自分も傷ついてしまう。
絶対的にどうしようもないのがどうやっても救えない使徒と融合した成長しない身体で、共に生きられないし戦場で戦って一人で死にゆくことしかできない人生はあまりに悲しいし寂しいから「これまでもこれからもずっと一人」って言い聞かすしかないと思うんですよね。
自分たちはけして報われないと理解してて、報われないけど待ってるし、報われないけど帰る場所にして、報われることを諦めて、それでもずっと寄り添ってた。
「アスカはアスカだ」というのは、エヴァに乗らなくていいそのままのアスカだし、寂しくて泣いていたアスカも、努力してがんばってたアスカも、使徒と融合してしまったアスカも、人類を守る責務を背負って戦場で生きるアスカも、彼女の人生すべての肯定だし、彼のしていた生活と行動のすべてがそう。
ケンスケはパイロットとか、選ばれない普通の人だし、根本的な問題を解決できるわけでもない無力な人だけど、特別なことは何もできなくても普通の人ができること必死で全部やってようやくささやかな安らぎだけでも、それこそがずっと彼女が欲しかったもので、彼女を十分癒やして救ってた。
あのあと彼らがどんな未来を生きるのかはわからないけど、ふたりとも自立してるしもうなんのしがらみもないからどういう道に進んでも大丈夫なんだと思ったらこんな幸福なことないですよ。
彼らは同級生で、互いに尊敬できる人で、寄り添いあった家族で、恋もして愛しあっていると思う。
あの二人は一人と一人の対等な人間のさまざまな愛があったと思う。
彼らの愛、本当に素晴らしかったなの話です。