2部5章 シャルロット・コルデーという出来損ないの人魚姫が、王子様にナイフを突き立てるまでの物語だったのでめちゃくちゃ泣いてしまった
2部5章シャルロット・コルデーの初登場立ち絵見た瞬間に「これ人魚姫だ〜!」になったニンゲンいるんじゃないですか?
いやまず「船から落ちて」「海岸に流れ着いた」人間を助けた「女性」がいて、しかもその女性は「ナイフ」を持っているんですよ。もうこの時点でかなり人魚姫の味がするだろうが。PVを見てたので「コルデーちゃんめちゃ人魚姫だし最後には朝焼けに泡になるのかな」とか思ってましたがそんなレベルでは無かった。
『人魚姫』のはなしをします。
人魚姫が海に落ちた王子様を海岸まで運ぶと、丁度修道院から少女が出てきて、砂浜に倒れている王子様に気づき、介抱のため連れて帰ります。
この「修道院」の少女というのが実は隣国のお姫様で、王子様は彼女こそが自分を助けてくれた人だと誤認します。人魚姫のライバルと言っていいですが、シャルロット・コルデーは「修道院」出身です。ウワーッ
つまりシャルロット・コルデーの持つ要素、「少女」「修道院」「ナイフ」に、2部5章の舞台であるアトランティスの「海」と物語の主軸である「愛/恋」を加えると、自然と『人魚姫』の物語のキーワードと重なるんですよね。担当シナリオライターは絶対これに気づいていて「2部5章シャルロットコルデーでめちゃくちゃオタクの心を突き刺す人魚姫をやってやるぜ」になってたと思いますが、どうですか? 絶対分かっててやってませんか? 狙い通り死にましたわよ〜〜!
コルデーは「人魚姫」ですが、より正確にいうのなら「偽物の人魚姫」で「人魚姫オルタ」なんだよなって話をしたい。します。
例えば、コルデーの三神クリロノミアの霊基を砕くような「痛み」は、人魚姫の足の「痛み」に相応しているし、「苦痛に耐えられない!……なのに、わたしの体は生きたがっている!」の叫びに続く独白は、突き刺すような足の痛みに耐えても王子様の側に居たいという人魚姫の恋心に通じます。
が、それと同時に、コルデーが自覚した己の「エゴ」は、彼女がはじめから真っ当な人魚姫ではなかったことを明らかにします。
──「愛しいから救ったのではなく、救ったからこそ愛しくなった」
これこそが人魚姫とコルデーの致命的な違いなんですよね。
人魚姫は王子様に恋したから彼の命を助けたが、コルデーはその逆です。救ったから、救えたから、恋をした。初めて何かの役に立てたことが嬉しくて、だから好きになった、純真無垢なエゴイズム! は〜めちゃくちゃかわいい……
「王子様」であるマスターの「傷」に喜びの感情を示すのも、この「純真無垢なエゴイズム」を自覚した後です。
(「その傷ついた表情を (中略) お見せにならないで。嬉しくてたまらなくなります」)
「エゴ」を自覚したコルデーは「間違いのない選択」のために「王子様」であるマスターの元を離れ、オデュッセウス戦にて再登場します。
まずオデュッセウス戦の舞台が「嵐のなかの船上」て時点でヤバさ限界なんですが、だって人魚姫が王子様を救ったシュチュエーションと同じですよ。死んでしまう。なんならコルデーという人魚姫の「はじまり」のやり直しと言ってもいいよ。原点回帰。
コルデーは見事オデュッセウスを倒すも、アテナ・クリロノミアの戦闘続行の仕様のためにこれまでの記憶を全て失います。これこれこれ〜〜〜〜…わかりますか?! アテナ・クリロノミアは『魔女の薬』です。足の代わりに声を失い、王子様のために命を捨てた人魚姫と、王子様の敵を倒す力の代償に記憶を失い、王子様のために戦って死ぬシャルロット・コルデーなんだよ。ここでコルデーという偽物が、本物と同じ地平に立ちます。偽物が本物に肉薄する展開みんな好きじゃないですか? 自我はめちゃくちゃ好き。
記憶と命をかけて、一瞬だけ本物に肉薄したシャルロット・コルデーですが、直後に反転します。
彼女が、王子様の敵にナイフを突き立てると同時に、王子様の心臓(こころ)にも刃を差し込むことを良しとしたからです。
たとえ、それが醜い傷痕になったとしても。
たとえ、それが辛く悲しい離別だったとしても。
わたしは、"誰か"にナイフを突き立てたかった。
切り裂きたかった。血を流して欲しかった。
──これはわたしの、溺れるような初恋だったのです
ヤバくないですか? 人魚姫の恋の形は「傷つけないこと」なんですよ?! 興奮して死にそうです。
あなたにナイフを突き立てたい、永遠に残る傷痕を与えたい、なぜならこれが、わたしのはじめての、溺れるような(!)恋だったからです、という この 恋に溺れた出来損ないの人魚姫が最後の最後に辿り着いた、とんでもなく醜くてどうしようもなくうつくしい答え、めちゃくちゃ泣いちゃったよ。嗚咽。
もっというのなら、王子様を傷つけることを厭い、ナイフを捨てて朝焼けに泡となって消えた人魚姫と、王子様にナイフを突き立てて、夕焼けの光のなかで死んでいったシャルロット・コルデーです。朝焼けと夕焼け。オタクそういうのにヨワヨワ。
なんかもうめちゃくちゃ好きだ 俺だけの人魚姫だよ
あと、人魚は涙を持たないので、原典の人魚は精霊となってはじめて涙を流しますが、それを踏まえた上で血に濡れても微笑んでいたのに最後の最後「──どうか、良い人生を!」の瞬間に涙をこぼしたコルデーこと考えると気が狂います。おわり。