プロメア感想
クレイ・フォーサイトは悪人だったのか。僕は彼をプロメア界の衛宮切嗣であり、英雄のなりそこないだったのだと思いました。
・まだ前日談もパンフも読んでない劇場成分100%の考察であり妄想です。クレイという人間に魅了されたオタクの戯言だと思って流し見していただけると幸いです。
・また、記憶違い等も多々あると思われますのでここに書かれている事が事実と思わず『映画見てこう認識してこう解釈した』くらいの気持ちで読んで下さると幸いです。『こんなシーン無かった!』『このシーンそうじゃなくてこういうシーンだったよ』みたいなツッコミをしながら楽しんでください。
正直最初にビジュアルを見たときに『あ、こいつ黒幕だな』って察してしまったクレイ・フォーサイト。
ああいう笑顔で名声と地位のあるキャラって大抵黒幕だよな……声優よりビジュアルでキャラのポジションが解ってしまうの、ミステリ好きとしては複雑だけど見ただけでそのキャラの特徴が解るってのは凄いことなんだなと思ったりもしました。
さてそのクレイですが、実際プロメアを見てみると作中で最も複雑で、それ故に味わいのある素晴らしいキャラだと感じました。なんやかんや見終わって一番好きなキャラです。
作中彼を野望の炎に狂わせたのはなんなのか、クレイは本当に悪人だったのか。
少なくとも、僕は彼を悪人だとは思いませんでした。むしろ、作中で最も『現実的に』人類を救おうとした英雄であるとさえ僕は思っています。
クレイの悪行を大まかにあげれば
・バーニッシュを用いた人体実験
・一万人の選定された人類を宇宙に飛ばすためにその他大勢を見殺し、その際地球の滅びを加速させた。
・博士の暗殺、およびその研究成果の横取り。
・ガロの家を燃やす(この際、ガロの家族が焼死している可能性が高い)
余罪として挙げるなら、そのガロを死にやすいバーニングレスキューに推薦したりガロを騙し続けていた事なども彼の印象を悪い物にしている一因だと思われます。
しかし、本当にクレイはガロを嫌っていたのか、それ自体僕は疑わしく感じています。
ガロの件に関してはおいおい話していきますが、まず第一に、クレイの目的はバーニッシュを抹殺することでも地球を滅ぼす事ではなく『滅びゆく地球からできる限りの人類を新しい惑星へと逃す』という人類救済です。
彼は博士との研究でバーニッシュの正体も、このままでは地球が三十年と半年後に滅びると知っていた。そして恐らく、博士が死んでからも地球を燃やす炎を消す研究を続けていたはずです。(ガロに地球の滅びの真実を告げる際そんな話をして、エリス達も何も言わなかったからそれは間違いではないはず。本命ではなかっただけで)
『地球炎上は避けられない』『全人類を救うことはできない』だからクレイはバーニッシュを使った人体実験を決行した。博士には非人道的な上に地球炎上が加速するだけだと聞かされていても、それ以外人類を救う方法は無かった。博士はそれでも最後まで誰も犠牲にならず地球を救う方法を考えようとしていたのでしょうが、クレイはそれが間に合わないと判断したのでしょう。だからその障害となる博士を殺した。
一つ、印象的なセリフがあります。正確には覚えてないのですが、過去の記録で博士がクレイに殺される際、博士は『初めから私の研究を横取りするのが目的だったのか』と問うシーンです。
これに対し、クレイは『……そうかもしれませんね』と返すのです。
もし、博士が死ぬと解っているから本性を口にしたのであれば『そうだ』と断言すればいい。
もし、嘘や偽善を貫きたかったなら『そうじゃない』と言い訳すればいい。
なのにクレイが口にしたのは『そうかもしれない』という消極的な肯定でした。
これには僕は、彼が本当は博士を殺したかった訳でも研究を横取りしたかったのではなく、『多くの犠牲を出してでも人類を救いたい』という思いの表れのように感じたのです。
一部の人に解りやすく言えば、クレイは衛宮切嗣タイプの、正義の味方を目指した成れの果てだったのだと思います。事実、作中では結果的に地球は救われますが、それはクレイの暴走と研究所の発見、その他多くの偶然と奇跡によって救われただけで、終盤まで彼以外に人類を確実に救う方法を見つけた物はいませんでした。クレイの暴走が無ければ、地球は本当に死の……いや炎の惑星になっていたかもしれません(だからこそエリスもクレイの考えに消極的とはいえ納得していたのでしょう)
仮にガロとリオの活躍が無かったとしても、一部の人類は救われていた訳です(都合よく移住できる惑星が見つかるか不明ですが)
ではクレイ・フォーサイトという男は、外道ではあれど英雄的思考だったのか、と言われると、それも違うのではないかと思います、『英雄的思考ではなかった』のではなく、彼、外道ですら無かったのではないかと。
クレイの発言にバーニッシュに対し差別的な発言が見て取れます。彼はバーニッシュという種族の愚かしさを知っていた。宇宙人の意思で炎を宿し、その炎を正しく制御することができない愚かな種族であると。
彼自身も、バーニッシュなのに、他ならぬバーニッシュだからこそ。
バーニッシュは炎を制御できない愚かな種族であるとクレイが言うと、『まるで自分だけは別みたいな言い方だな』的な事をリオが返し、クレイがそれに肯定します。
しかし、これは想像になりますが━━本当は誰よりもクレイ自身がバーニッシュである自分を蔑んでいたのではないかと思います。
少なくとも、彼も炎を制御できず、民家を燃やし、そこから火傷だらけの子供を拾ったことがあるのですから。
他にも、クレイとリオ&ガロが街中で戦闘する際、移住先の惑星で使うつもりだった発明品が次々と出てきます。その中に対象を分子レベルで分解して山にするみたいな発明品が出てきて『ビルの中の人は!?』みたいな感じで犠牲者を心配するセリフをリオ達が言っていたのですが、それに対し『住民は全員地下シェルターに避難済みだ!』とクレイが返します。
あの時点で街にいる人間は非選民であり、クレイの計画では遅かれ早かれ死ぬ人達です。なのに彼は彼らを地下シェルターに逃がし、戦闘による被害者を無くしていた。彼が本当に外道で、名声しか興味のない人間だったなら、そんな気遣いなんて無意味なはずなのに。
まるで、死ぬのは仕方ないとしても苦しむ人間は減らしたい。そんな気遣いすら感じました。
また、クレイが用いる発明品は、移住先の惑星でも人類がつつがなく生きていけるように考え抜かれていて。その出来からも彼が移住先の惑星でも人類が生きていけるようにするという未来のビジョンがとても明確にあって、そういった姿からも僕には彼が悪人だったとは到底思えないのです。
クレイの行動が英雄的であったとはいえ、彼が悪では無かったのかと問われれば否定はできないでしょう。少なくとも人を殺し、研究成果を奪い、多くの人々を騙し、人類を救うためという大義名分のためにバーニッシュをはじめとした多くの人間を犠牲にしてきたのですから。
ただ彼は富や名声の為に人類を救おうとしたのではなく、人類救済という栄誉に目が眩んであそこまで暴走してしまったのだと思います。
『英雄症候群』という精神状態が存在するのですが、クレイの中に燃えていた野望の炎の正体はこれだったのではないかと思います。
たぶん彼は、人類を救うという英雄になりたかった。他の人間ではなく、自分が人類を救いたかった。褒められたかったのではなく、ただ『そういう人間』になりたかった、結局のところ、彼の暴走は人類救済と英雄願望に依る物で、その炎が鎮火した時、救われた地球を見てリオに『……余計なことを』と何処かで清々しげに口にしたのは、それらの野望の燃えかすだったのではないかと思いました。
最後に、ガロについて。クレイはガロを実はうっとおしく思っていたということが明かされますが、それにしてはガロに対してあまりにも気にかけているなと思いました。
そもそも、本当にガロがうっとおしかったなら危険な職業に就かせて死なせるなんて遠回りな真似をせずに自分の目の届かない場所に追いやればいいんですよ。別にガロはクレイの本性について何も知らなかったんですから、無理に殺す必要なんてなかった。
それこそ、殺したいほど憎らしかったなら、バーニングレスキュー以外にも危険な職業はあるし、バーニングレスキューの部隊も世界各地にあるはずなので遠くに左遷して彼が死ぬ報告を待つだけでよかった。なのに彼は自分に近しい職業に彼を着かせ、会おうと思えばいつでも会える場所に彼を住まわせていた。彼ほどの権限があれば、ガロの処遇なんて意のままだろうに。まるで、自分の目の届く場所に置くように。
それにクレイは死にやすいからとガロをバーニングレスキューに就かせたと言ってましたが、ガロの性格を考えると、むしろ本人が進んでなりたがったように思います。炎の中から人を救い出すという職業は、かつて火の中から自分を救ってくれた恩人を連想させるし、自分が活躍すればするほどクレイの評判も上がるのですから。
ガロの発言から、クレイは火の中からガロを助けたこと以外にも様々な援助をしていたと受け取れます。本当にガロを嫌っていたのだとしたらクレイの行動はあまりに矛盾しています。
個人的にクレイのガロに対する言動で一番不可解だったのが、バーニッシュの人体実験を本当にしてるのかとガロに問われた際、人体実験の目的と半年後に待ち受ける地球滅亡の真実を告げたことです。
エリスがガロを連れてきた事に驚いたように、ガロに真実を教える必要なんてなくて、お茶を濁せばよかった。真実を言っても言わなくてもガロが暴れることはわかりきってたのだから何も言わずに追い出すか、真実を告げずに閉じ込めてしまえば良かった。なのに何故クレイは真実を教えたのか。
これは完全に僕の妄想になりますが、クレイは、ガロに理解者になってほしかったのではないかと思うのです。自分は人類を救うために行動しており、ガロにそれを知ってもらい、共に宇宙に旅立って欲しかったのではないかと。
犠牲者は出すものの、目的はあくまで人類救済であり、ガロは自分を慕っている。真実を知られた以上、苦渋の選択だったとはいえ、ガロが自分の味方になってくれる可能性が0ではないと、クレイは考えたのではないでしょうか。
けどクレイの知るガロは、大義名分のために誰かを犠牲にするなんて不条理を認められる男ではなくて、ガロがそんな男であるとクレイは知っていたからこそ今まで黙っていたし『君はそう言うと思っていた』という言葉が漏れたのではないでしょうか。
そしてクレイはガロを閉じ込めました。しかしこれも、冷静に考えると違和感を感じます。
計画を知られたガロはクレイにとって生かしておくわけにはいかない存在です。もし移民の話が万が一にも外に漏れ出したら暴動は避けられず、移民計画も最悪潰れていた危険性さえあります。
クレイは名実ともにガロを殺す大義名分を手に入れた訳で、秘密裏に彼を抹殺する事もできたはずなのにそれをしなかった。これこそ、クレイが見せたガロへの甘さなのではないかと僕は思うのです。
更にいえば、あの建物は一部分だけとはいえワープ用の箱舟になっていた。……本当に、もしかしてもしかすると、クレイはガロを箱舟に乗せるつもりだったのではないか。クレイを見ているとそんな気さえしてくるのです。
僕がプロメアを見て感じたクレイ・フォーサイトという男は現実主義で自分の手を汚し、多くの犠牲を出しながらも人類を救うと言う覚悟を持った英雄的男です。地下シェルターの話からも、無意味な犠牲を良しとする人間ではなく、最後の最後まで人類を救うと言う意思を貫いた人です。
そんなある意味責任感の強い彼だからこそ、自分が炎を操れなかったばかりに被害者となった子供の支援を続け、常に自分の目の届く所に置き、真実を告げ、自分の理想に沿わないと知った時、あえて嫌われるような言動を取ったのではないか。
ガロが一切の罪悪感なく自分を憎めるように、戦えるように。
思えば、クレイはリオに対してもそうでした。バーニッシュを犠牲にする人間に対して怒りを燃やすリオに対し、クレイはあくまで『憎むなら私を憎め』と言っていました(たぶん、確か、間違ってたらすまない)
クレイは自分の手を汚す事も、人体実験に怒りを燃やすバーニッシュの憎悪も全て自分一人が引き受けた上で作中の行動に移していたと思うと、プロメアにおける英雄は彼だったのではないかと僕は思います。(あるいは、英雄のなりそこないかもしれないが)
基本的にクレイの悪行に一切のフォローはなく、博士はクレイを自分の研究成果を横取りするためにそばにいたのだと思って死んだし、リオはバーニッシュを人間とも思ってない差別主義者だと思っているし、ガロもクレイに裏切られたと思ったままでしょう。もしかしたらそのままそれが真実なのかもしれません。(これまでの考察も、あくまで僕の妄想です)
だけど僕は、クレイ・フォーサイトもまた地球を救った一人であると、心から信じています。
PS.冒頭でも言いましたが、これからパンプとガロ編前日談を見る予定なのでこれらの考察がひっくり返るような事実が出てくるかもしれませんが、それはそれ、劇場で見た感動をすぐに纏めたくてあえて初見の映画だけの情報を元に語らせてもらいました。(ちなこれ劇場の待合室で書いてます。Macって軽くて便利)
あとこれ本当これまでの考察関係ないけど、松山ケンイチさん作中でどんどんガロの演技上手くなってくね。最初ちょっと違和感あったけど後半は完全にガロだったもんね。声のかすれっぷりから演技中に叫びすぎて喉がちょっと潰れたのかなって心配になったりしました(でも叫べば叫ぶほどガロに近づいていく)
完全新作アニメーション『ガロ編』ってことは当然他キャラ編もあるんだよね。オーケ何回通えば良いんだい?財布の準備はできている。