モッサイ峯羽
死ネタ
コミックス未収録ちょい足しネタに触れてます
熱いうちにと書いたのでメモ程度に読んでください
「峯岸、こんなとこで何やってんの?」
「……見ての通り仕事」
あれから"5超"もバラバラ。それぞれがどこで何をやってるかなんて知る由もない。そもそも繋がりなんてあの時の一時的なものでしかなかったのだから連絡先なんて知るわけがなかった。
その後の僕は、真っ当に生きてみようと働き口を探し、やっと決まったアルバイト先の生花店で閉店の片付けをしていた時だった。聞き覚えのある声が僕の名を呼ぶ。羽鳥だった。
偶然、通りかかった道。なんとなく覗いた生花店。そこに見覚えのある男──。
「で、僕に声かけたってわけ?」
「そう!驚いたよ~だってあの峯岸が働いてるんだもん!」
せっかくだからとバイト上がりに半ば強引に居酒屋へ連れて行かれて、この台詞。僕がニコニコ生花店でアルバイトをしているのが余程おかしいのか笑いながら羽鳥は話し続ける。否定はしない。植物の世話は嫌いではないが接客業務は一番苦手だ。だけどそれは僕だけじゃないと思う。あいつらどこで何してるのか知らないけどきちんと働いてるのは想像できない。それは羽鳥も同じだ。
「ねえ、もういいだろ。帰っていい?明日も朝からバイトなんだ」
慣れない仕事に疲れ、早く帰りたかった僕は話を切り上げ席を立つ。そんな僕を見て羽鳥は慌てた様子で「ちょっと待って!連絡先だけ教えてくれよ」と僕の腕を掴んで離そうとしなかった。今思えば羽鳥は酔っていたのかもしれない。そんな繋がりに執着するような奴じゃなかったはずだから。
連絡先を交換した日から羽鳥からのLINEがほぼ毎日くるようになった。自分もまともに働こうと仕事を探してるだの、面接に落ちただの、落とした会社は見る目が無いだの、やっと就職先が決まっただの、仕事のクレームがキツイだの……短い他愛ない文章がポンポンと日を空けず届く。そのほとんどに僕は返信しなかったが羽鳥からのLINEは相変わらずだった。
あまりにも愚痴が続いた日に気紛れに聞いたことがある。
[なんで急にまともな仕事探し出したの?羽鳥ならもっと楽に稼げる方法あるでしょ?]
[うん、僕なら簡単に稼げる方法はいくらでもあるよ]
[でも峯岸がさ、ちゃんと頑張ってたから]
[僕もちゃんとしようかなって、今頑張ってみてるんだよ]
照れでもしたのか、その話をした日から羽鳥のLINEが途絶えた。
[こんな風に考えるの変?]
[変だよ]
[キャラじゃないって?]
[うん、すごく似合わない]
[峯岸に言われたくない]
[僕も羽鳥に言われたくない]
[峯岸、絶対今の仕事続かないと思う]
[その言葉そっくり羽鳥に返すよ]
[わかった、どっちが長く続けられるか賭けよう]
[OK、乗った。なに賭ける?]
[うーん…そうだな~…]
「……僕まだ羽鳥に新しい冷蔵庫もらってないんだけど」
偶然だった。パソコンの修理サポート会社に就職した羽鳥が顧客からのクレーム処理として修理に向かう途中、大型車同士の事故に巻き込まれ即死だったそうだ。
「飛行機だって余裕だったんだから使えばよかったのに、力」
そんな余裕がないくらい一瞬だったかもしれない。
「バカだよ、本当」
事故現場には花束一つなかった。
「羽鳥には全然似合わない」
もうここには来ないだろうなという思いと、事故現場には不釣り合いなキンセンカの花束を置いて羽鳥が息を引き取った場所を僕は離れた。
キンセンカ──『寂しさに耐える』『悲嘆』『別離の悲しみ』『失望』