習作キ●アガイル 待ち合わせのシメスタ
先発でこうげきを下げていけ
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改札を抜けて彼を探していたら、面倒なナンパに引っかかった。大学生か社会人か、今風のチャラい茶髪が煙草と酒の臭いを纏っていて、だいぶ気分が悪い。
「すみません、門限があるので」
「またまたー、ここの駅の周りに住んでる学生さんなんて皆一人暮らしっしょ。俺この辺結構詳しいんだあ。お酒おいしいとことか、ご飯うまいとことか、色々案内できるよ。どう?」
「忙しいんです」
「忙しいのに帰らないの? 夜更かしするなら俺と一緒でよくね?」
適当にかわそうとしても、のらりくらりと絡み続けるナンパ男に苛立ちが募る。理性というリミッターの怪しい酔っ払いは何をするかわからないから、下手なことを言って逆上させるわけにもいかないし、待ち合わせ場所から離れるのもややこしい。下宿するなら夜でも治安のいいところを選べとしつこいほど繰り返す彼の言い分がしみじみと理解できた。
「だから、私は――」
「どうも、こいつの門限ですが」
不意に、強い力で肩を引き寄せられた。とん、と受け止められた背中が暖かい。頭の後ろで、走ってきたのか温度の高い吐息が揺れている。
「九時までに帰ってこいって、約束してたんすけどね」
地を這うような声で威嚇されたナンパ男がもごもごと何かを言いかけたが、初対面で披露するにはいささか鋭すぎる眼光に刺されたらしく、すみませんに似た単語を呟きながら後ずさっていった。
「あの、ミカド……ありがとう」
「悪い、待たせた」
何もされなかったか、と目線を合わせて尋ねる声はずるいと感じるほど優しくて、喉の奥が詰まったように言葉が出なくなる。ただ頷いて、頼もしい恋人に抱きついた。
「――懐かしいな」
よしよしと背中を撫でてくれる帝の頬はほんのり赤くて、ちょっとかわいいかもなんて眺めるうちに気持ちがほぐれる。初めてプライベートで出会った時も、守ってくれたのだった。庇われてばかりいるのは性に合わないけれど、でも、嬉しい。
「そうね。じゃあお礼にお茶でも奢りましょうか、お兄さん」
見上げた先に人懐っこい笑顔が咲いていたから、晴も笑って恋人の手を取り歩き出す。
了
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相手がきもったまじゃなくてよかったっすね