習作キ●アガイル 22歳と17歳のシメスタ
本当はがまんしたくない
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トイレから戻ったら、恋人が寝ていた。
時間にしてほんの数分あるかないかだったと思うのだが、晴はテーブルに向かって背筋を伸ばしたままうとうとと舟を漕いでいる。
「おいおいマジかよ」
帝は晴の隣に身体を滑り込ませ、真横に座る。肩を寄せると、気づいているのかいないのか、ことりと頭を預けられた。小さな寝息まで聞こえそうな距離だ。そのまましばし、顔を眺めてみる。
くるりと上を向く長い睫毛。少し尖った唇。さらさらと長い髪束の隙間からは、流線で象られピアスに飾られた耳が見える。
「――みか、ど……」
「ぅわっ」
突然名前を呼ばれて、肩に力が入った。彼女の口はまだむにゃむにゃと動いている。どうやら寝言らしい。ノートに突き立てられたシャーペンにぶら下がるチャームがちりちりと揺れる。素肌が触れている腕の片側だけが、燃えるように熱い。夢の中の自分は、一体晴と何をしているのだろう。手を握っているのか、街を歩いているのか、並んで座っているのか、あるいは。
今なら、押し倒してしまえそうな気がした。
「……お前なんか、いつでも襲えるんだからな」
耳元に囁いてみる。だがそれは、フェアではない。互いに心の準備をしてから事に及ぶのが自分たちらしいと思うから。何より帝にはブランデー事件という前科がある。あんな失態は二度とごめんだ。
本音を言えば、一刻も早く身体を繋いでしまいたい。これほど美人でよくできた高校生が学内で異性からどう見られているかなんて想像に難くないからだ。現に自分が彼女と素顔で初めて会ったのも、ナンパの現場だったではないか。晴は間違いなく自分を求めている、自分に全てを明け渡してくれる存在なのだと、触れて確かめて安心したかった。それでも、一方的に奪うやり方は選びたくない。
これが年上の余裕なんだと言い聞かせながら、帝は深い溜息をついた。
了
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剣盾でがまんが技リストからなくなったって聞いて戦慄してるんですが