金カム213話感想。それぞれの覚悟。
相変わらずのジェットコースター展開中で今回はアッパー回。鶴見中尉の元から逃がれ独力で金塊発見を目指す事にした杉元・アシリパ・白石と、彼らから道を分かたれつつもメッセンジャーとして新たな役目を負い、自らの立ち位置をかつての上官に明確にした谷垣、それぞれの覚悟が描かれる。
この時代にはまだ就航していない連絡船(稚内~大泊間の連絡船就航は15年先。稚内~旭川間の鉄道もまだ整備されていない)を唐突に持ち出され、正直かなり強引な展開だなという印象を受けた今回の話。構造的には、同様に杉元が撃たれてもなお逃走し、その先に見つけた飛行船を奪取した旭川~大雪山山麓到着エピソードの再展開。前日まで故障中だったという設定にも、船は乗員数管理が厳しいだろうに血まみれの男や銃を携帯した密入国のロシア人が切符の確保無しに簡単に乗り込めるセキュリティにも、何だか無理矢理感がない訳ではないが、それはともかくとして物語はなおも走る。杉元が連絡船に乗るにあたり血まみれの体を毛布を掛けてごまかす姿は、〇HKの「いだてん」あたりを見ると赤ケット(赤い毛布)を被って外をうろうろする人も珍しくない時代だったから、そうおかしくもないのかもしれない。
毒を外した矢を構える姿に、アシリパの「人を殺したくない信念」は絶対に変わらず、「自分の信じるやり方でアイヌを守る道を探してくれる」と信じることにした杉元。そして体に重傷を負い人を殺すことに心の傷も深めても「俺は俺の事情で金塊が必要だから戦う」という杉元の言葉を受け止めるアシリパ。どう見てもアシリパを守るための殺害であっても「俺が殺すのは俺の為」で通そうとする杉元にすれば、元々のスタンスに戻ったつもりの「全部覚悟の上だろ?」なのだろうが、それに対してアシリパが受け止めるものが格段に重みを増しているのが、顔を写さぬ横からの構図に現れている。尾形に指摘された歪さを自覚しながらも、矛盾も痛みも抱きかかえたまま進んでいくアシリパの覚悟。そしてそんな彼女がヴァシリに追手の「足を狙え」と指示しても結局殺害してしまう状況を、ひっそり青ざめながらもカヴァーしに入る白石の気遣い。
そして民間船に発砲する水雷艇。流氷上ではなく船が航行できる海域に出れば当然追跡されるわけで。しかしいきなり砲撃ってそれもまた強引だな!?最早人目を憚る気もないんですか鶴見さんは。
今回が飛行船エピソードの再来なら、次回あたりには大雪山越えが再演されそうであり、船と流氷の位置によってはやっぱり氷上で寒さと闘う話が来るのかもしれない。まさかアザラシの腹に潜るんじゃなかろうな(『BASARA』か?)。
”谷垣の最終勝利条件はマタギ復帰”とする谷推しとしては、二瓶編以降ようやく谷垣がはっきりと自分の立ち位置を「マタギの谷垣」と宣言してくれた事とその表情の美しさに胸が熱くなる一方、ひょっとしたら主人公組と別れてしまった以上谷垣の姿はここで当分見納めになってしまうのか?と、心配な気持ちにもなる。樺太編では(北海道残留組にスポットが当たってる回を除き)谷垣か尾形のどちらかは描かれていたので、長い事登場を待たされていた鶴見中尉や土方組推しの方よりは多分に恵まれていたのだけど、当分どちらも出てこないかもしれないと思うとちょっとモチベが下がりそうなものがある。主人公組の場面はしばらくヴァシリ君を愛でていよう。
さて、久しぶりに北海道に舞台が移りつつあり、まさかの稚内方面上陸コースに入ったので、これからどの地域にスポットが当たるのかが興味深い。あまり描かれてこなかった日本海側を下って、歴史が比較的古い増毛などが描かれるのか、オホーツク側に向かって明治時代に砂金の一大産地となった枝幸周辺が取り上げられるのか。道北は沿岸部に産金地が多いので、展開的にも金塊にスポットが再び当たり始めた事もあり、その辺りの話題が取り上げられると私が楽しい。
〇マタギの谷垣
谷垣が同行者の乗る乗り物に同乗させてもらえず脱落する様は、樺太往路の初めに犬橇から落とされた展開の鏡合わせだ。ただ今回は、谷垣は杉元達に追いつくことを断念せざるを得なくなる。
インカラマッが鶴見中尉の元にいるが為に谷垣に「来るな」と言わざるを得ないアシリパだが、谷垣の負った『役目』を知るが故に代わりに谷垣にフチへの言づてを頼んでいく。その選択故に谷垣を、そしてフチの願いを裏切らざるを得ないが、谷垣の立場を一応は配慮した形だ。故にそれは両者の心理的断絶には至らず、谷垣は3人の乗った馬を追う事を諦める。
白石の行方を詰問する菊田に対し、彼らの逃亡した方向と反対の市街側を指差し嘘の証言をし、”谷垣一等卒”に対し走って追えと命じる菊田に「俺はマタギです。マタギの谷垣です」という谷垣の言葉は、彼がついに発した”鶴見陣営及び金塊争奪戦からの離脱”の宣言だ。自らの望む生き方の為に去ったアシリパ達と同様、かねてより『内心の自由』の範囲で心理的に既に鶴見との距離を置いていた谷垣もまた、その宣言によって”望み通りの生き方の為に動く”覚悟を対外的に発信し始めた事を示す。自分を捕らえる鶴見陣営との関係性の遮断の容易で無さを知りながら、谷垣もまた”己の生き方”の為に戦いを開始する。
谷垣のフチに対する「アシリパを連れ帰る」との約束が、アシリパの「フチにまた会う夢を見たと伝えて」というメッセンジャーとしての役割に変わるのは、燈台の夫婦にスヴェトラーナを見つけて連れ帰る約束が、月島により西に旅立つ彼女の手紙を持ち帰る形に変更されたのが再演された形であろう。
〇ヴァシリ
アシリパや白石に「頭巾ちゃん」というあだ名をいつの間にか付けられ、何だか面白便利外人枠みたいになりつつあるヴァシリ。馬に乗って颯爽と主人公達の危機に手を差し伸べる覆面頭巾男って鞍馬天狗か、と思ってしまった(古いな)(野村萬斎が以前演じてたんですよ)。
彼のキャラクターは「無口」「秀でた狙撃手」という点で、絵面的には樺太往路の尾形と対比されがちだが、「金塊に関心のない独立勢力」で「自分の願望に忠実」な「杉元達と利害一致の同行者」という点では、むしろ谷垣の立ち位置を継承したように思う。そういえば谷垣も公式に「白頭巾ちゃん」とか呼ばれていたんだった。
……これ、彼もそう遠くないうちに全裸に剥かれますね(確信)。
自らの願望に素直な男、というのはnd神が比較的好意的に描く立ち位置で、私も彼のキャラは割と好きであるが、見た目は言葉を使えずゼスチャーと特技の絵だけで意思疎通するワンコ味妖精キャラでも「獲物の生き死にを決めるのは私」のスタンスは相変わらずなので、船の出航を止めようと追って来たモブ兵などあっという間にヘッショされてしまう。「足を狙え」とアシリパは一生懸命指示するが、いかんせん日本語ワカリマセンだからなあ…白石が状況を知りつつ「よくやった」とフォロー。リパさんこういう時は情報の蚊帳の外。
〇哀愁の菊田特務曹長
やっと前線に復帰したものの、かつての部下達がさっぱり言う事を聞いてくれない中間管理職・菊田が不憫さ全開。宇佐美や二階堂にはなめてかかられ、一番近くにいた有古には造反され、月島には指示を無視され、谷垣には訳の分からない事を言い出される。宇佐美・二階堂については鶴見陣営内の勢力争いみたいなものだが、有古・月島・谷垣については彼らと鶴見との心理的乖離が投影されており、ひいては鶴見陣営自体の求心力の低下がここの関係性に現れているのが見える。
〇師団御一行
ウサミン、鼻血まみれで左の瞼も腫れてますが、前回米俵を2つも体に落とされた割に元気に動き回ってますね。そういえばそう遠くない過日に足を撃たれたというのに走り回っている。この人も大概不死身だ。
鶴見中尉は撃たれた兵士の死体と放置された馬の姿から判断して連絡船を水雷艇で追って来たけど、どれだけ人員回収出来たのやら。前回重傷を負った鯉登や彼に付き添った月島が全く描かれなかったけれども、彼らについてはそれ故に回収されて多分一緒に乗っているだろうな、という推定が出来るものがある。しかし鯉登は状況的にあまり振動を与えてはまずそうなのに大丈夫かな。死体になったメンバーは無事に回収されたのだろうか。
おまけ箇条書き
・「この馬は四人乗り」って、普通は1頭の馬に3人も4人も載せられないと思う。体重一トンもある農耕用重種馬にも見えないし(3人乗ってる絵面の時点で乗っている人数に対して馬が小さくてすごく気の毒)。この作品はどうも馬をバイク扱いしがちで簡単に盗んできたり乗り捨てたりしますね。
・「流氷の舟遊び」…昔はあった光景なんでしょうが、海面に落ちると確実に死にますのでヨイ子は真似しないように。
・杉元とアシリパが最初床下に身を隠していた建物のモデルは北海道開拓の村・旧土谷家はねだし。http://www.uraken.net/rail/travel-urabe104_11.html 先週『廊下』を見に行ったついでに見たら修復中で覆われていました。
4P 目のヴァシリの背後にちょろっと描かれている建物は、小樽の旧・鶴見小隊アジト等に使われた開拓の村の旧武井商店酒造部の側面が使い回されている。
5P目で谷垣と白石が走っていた背後にあった大きな倉庫?作業場?の建物もモデルがありそうだが、開拓の村ではおそらくない。明治村とかかな?どなたかご存じありませんでしょうか。