キャップ派だった私にとって、インフィニティウォーでめちゃくちゃ嬉しかったのはトニーがものすごくカッコいい大人として描かれていたこと。
AOUでトニーが不安感や知への探求心からウロトロンを生み出した時、一度目の失敗はまだしも現在進行形で迷惑をかけているアベンジャーズメンバーへの説得や説明なしに力押しでヴィジョンを誕生させたことが、ものすごく引っかかっていた。結果がよければ許されるのか?これだけフォローしてくれている仲間たちへの信頼はないのか?罪のない一般人が大勢犠牲になったにも関わらず、映画のトーンがあまりにも軽くはないか?
いろいろと飲みくだせないままCWを観て、ウロトロンを生んだ張本人であるにも関わらず、最初から協定を全面的に受け入れる立場でアベンジャーズに持ってくるトニーが悲しかった。
立場上仕方なかったとしても、そこはアベンジャーズを庇おうとしてほしかった。
ヴィジョンの件は仲間を無視して押し通したのに、国連から責任を追及されたら仲間にそれを押しつけるの?
手段を選ばず襲ってくる脅威に対して、犠牲を最小限にしようと闘うヒーローたちの努力を、誰よりも知っているのに。
国のトップや政治家たちは必ずしも国民のために機能しない。目の前で誰かが死んでいるのに国連から許可が下りないせいで活動できないことがあるかもしれない。だからこそ民間であるスタークがアベンジャーズを運営することがとても大きな意味を持つのに。
私の好きなトニーは、エゴイストと罵られようが最後の一線で引かずに自分の流儀を貫く粘り強いヒーローだった。武器商人からヒーローへの転身を臆せず世間に公表する、逃げない大人だった。
ルッソ監督がCWで「どちらも悪い」ように描けたのは、これらトニーの負の側面と、ソコヴィア協定の渦中にバッキーというキャラクターを据え置くことでキャップをエゴイストに見せた絶妙なバランス感覚だと思うので、やむをえないのもわかっている。
しかし、保護者の同意なしに15歳(児童)であるピーターくんを命の危険がある戦場へ連れ出したことについては、明確に大人として許されざる行為だった。
しかもトニーはピーターに対し事情のいっさいを説明しない。最初から自分たちが正しいから協力しろ、というスタンスだ。幼いピーターが憧れのアイアンマンにそう言われて断るはずもないのに。
結局怪我をしたピーターを目の当たりにして反省したかに見えたトニーが、ホムカミでまたしても保護者の同意なくアベンジャーズへ誘ってしまうのも、正直かなりつらかった。
もちろんこれはピーターが断ることを前提で書かれた脚本だとわかるし、トニーというキャラクターの性質上どうしても都合よく物語の歯車にされてしまう側面があるのは重々承知しているんだけれど、うーん…と思わずにはいられなかった。
しかし今回のインフィニティウォーで、トニーは紛れもなく「大人」だ。
スパイダーマンという戦力に安易に飛びつかず家に帰そうとし、自分もその当事者でありながらきちんと覚悟を固めて「片道切符だぞ」と宣告し、大人として叱る。ピーターを帰すのならば地球へ帰還すべきだが、被害の拡大を防ぎ闘いを有利に進めるために苦渋の決断でそれを避ける。
バナー博士に対しても、これまでは本人の意向などないがしろになりがちだったが、ハルクになれない場面できちんとフォローを入れていた。
さらにいつも通り船を直す。避難指示を出す。戦略を練る。自分の話を聞かないお調子者のガーディアンズに対し粘り強くコミュニケーションをとる。
あきらかに不利な局面でも決して引かずに足掻こうとする。スーツを脱げば普通の人間なのに、サノスという強大な敵に向かって臆さず、自分の出来うる限りの手段を使って倒そうとする。そしてついに、ただの人間でありながら初めてサノスに血を流させる。
そうそう、こんなふうに不遜でエゴが強くて、けれどきちんと自分の責任を果たそうとするカッコいいトニーが大好きなんだ〜!!と嬉しくて嬉しくてドキドキが止まらなかった。
そして、だからこそ最後「ごめんなさい」という言葉を残して消えてゆくピーターにはボロボロに泣いた。
大人の言うことを聞かず帰らなかった自分のせいで、トニーが傷ついてしまう。初めて自分を信頼して「アベンジャーズだ」と肩を叩いてくれた憧れのひと。
「いきたくない」と泣きながらも、誰よりもトニーの心の傷を想いながら消えていった子どものやさしさがあまりに痛かった。
ずっと父親にたいしコンプレックスを抱きつづけ、どこか子どものまま大人になってしまったトニーが、初めて父性をいだいた相手。
そのピーターを、最後の最後にあんなふうに失わせるルッソ監督の性癖と容赦のなさに脱帽した。
だってこれは、トニーだけが背負える犠牲だ。ウロトロンを生み出し、誰よりもひとり生き残ることを恐れたトニーだからこそ。ドクターストレンジが「他に道はなかった」と残したように。すべてはアイアンマンからはじまったのだから。