セットは極力シンプルに、背景映像は降りしきる雨が自在に形を変え情景を表す面白い演出でした。それまでずっと白黒だったその背景に、巌流島に入ったところから色がついたのが、生きる道を探したり失ったりと混迷の中を手探りしていた武蔵の
心がようやく迎えた小次郎との果たし合いに歓喜しているようだ、と思ったら泣けてしまいました。
水彩画のようにシンプルで(それでいて味わい深くもあったけれど)静かな白と黒の世界が、絵筆の跡も鮮やかな油彩画のようにくっきりとした色をつけて、血しぶきさえも美しい彩りを添えるが如くの。
まるで南国を描いた油彩画のような、ちょっとご機嫌な色彩の背景なのです、巌流島。
……ラスト、小次郎の亡骸を後にして旅立つ武蔵の前に現れた道のりが、再びの白黒だったのでまた泣きました。
小次郎を胸に、ひとり歩いてゆくんだな武蔵よ……。