北野武『首』=戦国アウトレイジ「みんな~やってるか!」
以下、ネタバレ感想
はじめに
北野武監督、また映画を撮ってくれてありがとう。そして公開してくれてありがとう。アウトレイジ最終章以来6年ぶりの映画体験でした。私はもうこの時点で、感謝しかないです。ありがとうございました。
<感想>
全員、悪人。全員、暴走!
惚れた腫れたがこんなに出てくる映画とは思わなかった!信長、秀吉、明智、家康らの天下統一を描いた作品は数あれど、ここまで情と衆道を描いたパターンはあまりないんじゃないかと思った。時代物の色んなお約束をフッ飛ばしてある意味トンデモSFみたいになっている部分もあったが、締めるところは締めていていい映画だったと思う。脚本は正直散らかっていた気もするが、エンタメ作品としてその辺はもういいんじゃないかな。楽しければOKです。どちらかというと笑って楽しむ系の映画かも。
映画は天下統一を狙う信長・秀吉・家康の登場から始まり、光秀の謀反、本能寺、備中高松城水攻め、光秀の自害までを描く。主視点は羽柴秀吉。
冒頭で信長が「村重と明智の関係」を疑ったところで私は(またまた~)になったが、ガチだった。ガチで、そこからガッツリ関係が描かれる。元々は信長が村重をめちゃくちゃ可愛がっていたわけだが、物理的に可愛がる(信長が短刀で村重の口の中を文字通り「蹂躙」するのを、村重は甘んじて受け止めている、など)だけで政治的な登用はなかった。それに腹を立てて村重は謀反に出たり失敗したりするのだが、信長が村重に執着している様子を見ると、惚れた腫れたの関係が政局に大きくかかわっていることが分かる。
作中では衆道の描写が多くあり、村重と明智が寝たり、信長と衆道が寝たりします。(明智が信長に命乞いのつもりで「お慕い申しております」と言ったことに対して)「本当は本気だったんじゃないのか」「妬くぞ、俺は」この時の遠藤憲一のなんとも言えない表情が良かった。村重が光秀好き好きを隠さないのは、本心だったのか、生き残るためだったのか…明智光秀は終始冷静なキレものとして描かれていたけれど、ずっと村重には甘くて、かわいかったです。
序盤は割とシリアスな感じで進むが、中盤から「バカヤロー、お前も行くんだよ!早くいけよ!お前もだよ!」という感じのたけし節が連発。笑えない冗談やシリアスな笑いが多くて楽しかった。側近たちとのテンポのいい掛け合いを見に来たまである。結託・だまくらかしあいの描写がとてもいい。清水が切腹する前に能を舞い、辞世の句を詠む姿を見ながら「おい、まだ死なねぇのか。早くしろよ。まだかよ」とケチをつける秀吉の姿には笑った。彼は終始「百姓出身だから武士道はわからない」といったスタンスで、信長・明智・家康の攻防を冷笑的な視線で見ていたのが面白かった。とにかく、策略で天下を取ろうとする羽柴秀吉、羽柴秀長、黒田官兵衛のトリオのバランスが良かった。
信長は終始小物感ある振る舞いで、アウトレイジビヨンドの石原を見ている自分はまじで笑いそうになってしまったんだけれども、北野映画初見の人にはどう映っているのか気になった。料理番のおじいさんに何の躊躇もなく毒見をさせる姿は冷酷さが際立っていた。本能寺の変(炎上シーン)はかなりあっさりしていた。逆にそれがよかった。本能寺は本作の要ではないからだ。ラストの秀吉の「バカヤロー!俺は光秀が死んだのが分かれば首なんてどうでもいいんだよ!」にもある通り、死んだことが分かればどうでもいい。
なお、本作は忍者もめちゃくちゃ活躍してて、手裏剣を投げたり、まきびしを撒いたりします。それらの描写もカッコよかったです(忍たま乱太郎のオタクより)。
キャストはこれまでの北野武作品に登場したキャストが大勢出てくる。ファンとしてはそこからテンションがあがる。加瀬亮の小物感がかっこよかったし、大森南朋の子分感も、浅野忠信の参謀感も最高だった。そしてなんといっても忍者役の寺島進さんの渋さが最高だった!!!!ソナチネから何十年もたったんだな~と実感した。胡散臭い千利休は岸部一徳さん。ハマりすぎている。曽呂利(演:木村祐一)の丁稚を見ていた時(この人たち見たことあるな~…誰だっけ…確か芸人の…あ!アマレス兄弟!アマレス兄弟じゃないか!おい!いいぞ!)というアハ体験をしました。
※映倫の区分は「R15+」で、血や首(断面あり)が飛びまくります。斬首以外の痛いシーンは恐らく冒頭のみ。スプラッター系が苦手な人は注意を。