牛尾(188話ネタ)/ちらりちらりと雪が舞う。白い花びらのように。ほんの好奇心で俺は義眼を守る右目の眼帯を外した。以下追記
真新しい偽物の瞳の上に、儚く溶ける花びらを招き入れる。
「なにしてんだ!」
俺の突飛な行動に焦った牛山がでかい掌で俺の右目を覆ったらしい。左側だけが知覚する視界がブレたのと、頭部への振動でそれを察する。右側を掌で隠されたまま、牛山を見上げてにたりと笑ってやった。
「このポンコツな目ん玉に雪が当たったらどうなるかと思ってよ」
「やめなさいっ」
牛山は大柄のおっさんの癖に時々母親のような口調で窘めてくる。まあ実際の母親にこんなまともに世話を焼かれた事はないんだが。触れてくる掌はところどころタコがあって凸凹としていた。大きくて、分厚くて、意外と柔らかい。離れようとするそれを捕まえて、顔を押し付ける。
「もう少しそのまま触っててくれ」
「どうした。外れそうか?」
覆った衝撃で義眼が零れるのではと牛山は気遣ってきたがそうではない。
「あんたの手、温かいな。さっきからコイツが冷えるせいで頭が痛くて敵わん」
「…そうか。つーかそれなら冷やしたら余計に駄目だろ。無茶な事するな」
まだ慣れてねえんだから。そう言って牛山が優しく目のあたりの肌を撫でてくる。奴の体温がじわじわと移る。すると頭痛も幾分かやわらいだ。この男の温もりのおかげか、それだけが理由では無いような。なんて突き詰めるのは俺の性に合わない。
「よし、もういいぞ」
「偉そうだな」
「せいぜい面倒見てくれよ?」
「ならもう少ししおらしくしてろってんだ」
「昔よりは大人しくなったろ」
「それでも十分生意気だよ」
ぶちぶち文句を言いつつも、俺の手から眼帯を取り上げてソッと労わるような仕草で付けてくる。
「やたらと外すんじゃねえぞ」
俺を見るその瞳は心底呆れた様子で、同情や哀れみのない真っ直ぐな、居心地のいい目だった。
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