【この願い、届くまで】
どんな因果が働いたのか、私がかつて暮らした部屋にこの手紙が落ちていた。
雪に触れていた所為で、最後の一文だけは読み取れなくなっていたが――いつかのようなひとときを彼女は望んでいたのだろうか。
そんな望みを持ちながら、何故私を生かしたのか。
自身が生き延びる選択肢は無かったのか。
最後の、あの表情の意味は――
…いくら考えようと答えが出る筈もない。この問いに答えられる者は既にこの大陸から消えてしまった。
それでも私が彼女を捜しているのは、その死を信じていないからだ。この目で見届けるまでは信じられぬ。
聖火神の指輪も光を宿さないまま、沈黙を続けている。これが何を意味しているのかは判らないが、もし、どこかに“正当な所有者”がいるが故に光を宿さないのだとすれば…
「……希望を抱いては、失うだけだと言うのに」
公平ではない思考を、頭を振って追い払う。
これは彼女の足跡を辿り、その真意を探る旅。ここに寄ったのは偶然に過ぎない。にも拘わらず手紙を見付けられたのは幸運と言える。
あるいは――導かれているのか。
手紙をしまい、部屋を出る。
次の地で何か得られれば良いのだが。