ミッドサマーは(ヘレディタリーも)人間関係の地獄に足を取られた人間たちが、今までとこれからの人生ごとデコトラで轢いて(轢かれて)よかったね! っていう話だと思ってたから共感と復讐という切り口で語られるのにずっとピンとこなかった
よかったね! っていうのは、このまま何もなければ人間関係の地獄は続き続けるだろうし、人間関係の地獄はいるのも地獄抜けるのも地獄なので、そこにいるよりはいっそ全部滅びてよかったね! と思うのでよかったねです。
ダニはクリスチャンを火にくべるけど、それはたぶんクリスチャンのしうちに対する復讐ではなくて(復讐がトリガーになっていると思うが)、自分自身、彼に依存していてどうしようもない、離れないといけない、ってわかってて、でも離れられない、向こうが別れたがっているのも分かってる、「あんな男やめときなよ」って言ってくれる友達も(たぶん)いたし、たぶんそこまで好きじゃないけど、今別れたら自分がどうなるのかわからない、っていう、もう本人にもよくわからないぐちゃぐちゃの執着ごと火にくべたんじゃないかなと思う。
たぶん、クリスチャンへの依存の向こう側にあった家族の出来事も一緒に火に投じたんじゃないか。
燃え落ちる小屋を見ながらそのことに気づいたんじゃないか。だから、あの笑顔なんじゃないか、と思う。
そんな男やめなよ、とか、そいつクソだよ、とか、もう別に好きじゃないんでしょ、とか、新しい生活を前向きに探そうとか、そういうので人間関係を思い切れる人間ならいい。でも、それで思い切れない状況にいる人間もいる。
新しい生活や物事に目を向けるのは、楽しいかもしれないけれどエネルギーがいる。探すのにも、受け止めるのにも。そしてそうするエネルギーがないとき、今までのものに執着してしまう。それでじわじわと疲弊して、余計に新しいものに目を向けるエネルギーがなくなっていく。
それに、別れるということはたぶん自尊心が傷つく。ダニのように、家族のトラウマを抱えて精神的に不安定であるならなおさら、クリスチャンとの関係を断ち切ることは、たぶんずっとずっと私が想像しているよりも難しい。
ヘレディタリーでは人間関係の地獄は邪悪なババアによって火にくべられるけど、ミッドサマーではそういう執着とか疲弊とか恐怖とかも諸々ひっくるめて自分の手で火にくべたので、ヘレディタリーと比較して意志の勝利、よかったね……と思うと同時に、ホルガ村というカルト集団とドラッグによってそこまで運ばれたのがよくなかったね……
ホルガ村の共感システム怖くない?っていうのはこっちhttps://fse.tw/syWXZWtRでも書いてるんですが、セラピーや癒しの話として消費するのもよくないね……と思う。
でもミッドサマー、今現在人間関係の地獄に足を取られてる人間にとってはめちゃくちゃスッキリする話だと思うんですよね。それは恋人同士の関係に限らないと思う。