【その心の蕩揺を・2】
「なんと、味覚を?」
「ああ。口に入れると味や香りが判らなくなると言っていた」
「それはおつらいでしょう…」
「いっそのこと飲むのに苦労するほど苦い薬でも処方してやれば良い、衝撃で戻るかも知れぬ」
「あなたは…ミトスさんを嫌っているのですか? 言動の端々に棘があるように思います」
「………。」
「違うのでしたら、後悔の無いよう一日を―ひとときを、大切にされた方が良いかと」
「…余計な世話だな」
「ええ、薬師ですから。余計かも知れない世話を焼きます。では私はミトスさんを診てきましょう」
「頼む」
彼女を好きか嫌いかなどと、考えたことがなかった。
大陸に希望を灯した選ばれし者。私を消滅から掬い上げ、共に旅をと手を差し伸べた物好き。彼女に対する所感はそれだけだ。
少なくとも、今彼女が死んだとしても私に後悔はない。
ただ、残念…とでも言うのか、鬱屈とした感覚が居座っている。
これが何を起因とするものなのかが未だに判らぬが、彼女を見ていると濃度が増すのは確かだ。
せめて彼女が死ぬ前に、これの正体を明かさなければ。