三国機密31話、曹丕を殺さずに拉致した王越は、天下最強の「王氏剣法」を伝授してやるから学ばないかと持ちかける。「王氏剣法」を習得するのには、怨恨と怒りで満たされた心が最適であるらしい。詳細と感想、聯盟司馬昭ちゃんとの対比とか。→
怨恨と「戾气」に満ちた心が、「王氏剣法」を習得するのに相応しいそうで。「戾气」という言葉が手持ちの辞書に載っていないけど、検索すると「横暴で残虐な恨みがましい偏った精神的な気分」とか、直訳できる日本語がないとか出てくる。怒りとはちょっと違う気もする。
曹丕は、そんな剣術になど興味ないと一蹴する。自分はもうこんな生を生きていたくない。早く殺して弟の仇を取れと迫る。
※そもそも、王越の仇は曹操であって、曹丕ではない。これも理不尽なとばっちりである。元より方々から曹操の子というだけの理由で恨まれており、しかも、その曹操にも冷遇されている。そして父が自分を冷遇する理由は、いわば単に自分が存在することそのものにあると知ってしまい、もう人生そのものが理不尽すぎて、死にたくなった感じ。
ならば名誉の自害をさせてやる、と剣を渡されるが、死ぬことができない。王越は、曹丕の心にある「不甘心」を指摘する。不当な境遇への悔しさによる未練があって、自刃できなかった、って感じかな。
おまえは、そういう「戾气」に満ちた心のまま生き続けて、苦しくはないのか? と曹丕は尋ね、王越は、自分がかつて家族を奪われ、世の中への憎悪を剣術に昇華させてきた過去を語る。おまえは仇敵の子だが、素質がある。
伝授された剣術で、私がおまえを殺すことを怖れないのか? と問われた王越は、俺の弟子にはそのくらいの気勢が必要だ、と哄笑。だが言葉ではだめだ。師を殺したいと思うなら、剣をとって技を学べ。剣で語れ! こうして、曹丕は密かに王越の弟子となる。
……あのー、これ三国志ドラマでしたよね?( ˘ω˘ ) この子、後の魏文帝様でしたよね?( ˘ω˘ ) ちなみにこの王越というキャラの元ネタは曹丕の典論に出てきて、間接的に曹丕の剣の師という点で、そこまで外していなくて、相変わらずマニアックにぶっ飛んでいるんだよなー。
それにしても、全力で不憫な曹丕ちゃん。本人は何も悪くないのに、ただ存在することで罪を背負わされている。本人は「罪孽」と言っていたが、これも、ただの罪とは少しニュアンスが違うのかな? ある種の原罪みたいな感じを受ける。そして曹丕の心に満たされた怨恨は、罪の原因を作った母や、理不尽に虐げる父に対するものというより、理不尽な運命に対するものなのか。
この曹丕ちゃん、軍師聯盟の司馬昭ちゃんと、中の人が同じという以外にも妙に似ているところが多くて、生まれ変わりみたいな感覚で鑑賞しているけれど、ただ存在することが罪になるという運命まで似ているとは。ここで曹丕が殺されたがったのは、司馬昭が、父に殺されることで贖罪を望んだ構図と似ていると思う。なお、ここで曹丕が攫われてしまっているのに、曹操たち味方は皆ろくに心配もせず、劉平も自分の事情で忙しく、彼を救おうとしてくれる人は目下、誰もいない。王越は果たして救いの手を差し伸べてくれたといえるのか? まだ話が途中なので、今後の展開にもよるかな。
機密曹丕ちゃんと、聯盟司馬昭ちゃん、もちろん違うところも色々ある。曹丕ちゃんは、こんな運命は不公平だと泣いたり、こんなふうにして生きていたくない、と言ったりできる、ある意味まともで繊細な神経を備えている。私は司馬昭ちゃん贔屓で、彼もまた運命的に不憫だと思うけれど、そういう繊細さはあまりない。ないところが却って痛ましいのだが、本人の自覚としてより痛みが深いのは、曹丕ちゃんだろう。司馬昭ちゃんには、与えられた罪業ごと受け容れてくれる司馬師兄上がいたけれど、今のところ、曹丕ちゃんには、それでも生きていてほしい、と言ってくれる人は誰もいないようだ。
檀健次さん(中の人)がインタビューで、二人は似ているところも多いけれど、曹丕のほうが可哀想だと言っていて、司馬昭ちゃんも可哀想なのになーと思っていたが、これは、ちょっと賛同できる……。