三国機密32話、曹丕は卞氏に、あなたが兄を殺させたことを知ってしまったと詰め寄る。兄は当時十歳だった曹丕を馬に乗せて逃がしてくれたが、兄が討たれて死ぬ光景を、今でもずっと夢に見る。しかし卞氏は、おまえたちのためだと主張。→続きと感想
卞氏は、それは(実子である)おまえたち兄弟のためだったと言う。家庭内の小さな恩讐にとらわれずに、天下を見なさい。自分は息子たちのためならどんな罪でも背負ってみせる。
おまえたちのためなんて嘘だ、と曹丕は反論。曹植のためでしょう? 私のためではない。私はずっと一所懸命にやってきた。父上が詩を好むからと、詩を学んだ。父上が戦に出るからと、武芸を鍛練した。自分は今、曹家の長子になった。それなのに、父上は自分を愛してはくれない。その理由がわかってしまった、父上は私のせいで兄が死んだと思っているからだ。私は「祸害」(災い、害になる者)だったのだ。私も兄上と一緒に死ねばよかった、そうすればあなたがたは、嬉しかったでしょう?
卞氏は、涙を流しながら息子を平手打ちにする。そんな理由で父上がおまえを愛してくれないと思っているのか? 曹操は、父の寵愛を競うような幼稚な子供ではなく、自分の志を継いでこの乱世を終わらせる英雄となれる人間を求めている。そのためなら罪も背負い、非情になれる、どんな屈辱や困難にも耐えられる人間を求めているのだ。
※大きな目的のためなら悪事も厭わない、という、なかなかの苛烈キャラだった卞氏。しかしこういう人って、得てして、自分の強さ(と言っていいのかどうか)ゆえに、自分のように強くはなれない人間に納得できずに、傷つけてしまうのだと思う。史実年齢ならまだ十五にもならない、幼い我が子の、トラウマに苦しみ続け、親から肯定されることを求める必死な心を、幼稚な感傷として抑圧してしまう……。
そこに、曹操と曹植がやってくる。卞氏と曹丕は、二人とも慌てて涙を拭って曹操に向き直るのだが、サッと仮面のようにクールな微笑みを作ってみせる卞氏に対し、必死に顔をこすって涙目のままなんとか顔を上げる曹丕ちゃん。
曹操は曹丕に、おまえがやったことを聞いた、と言う。曹丕は、無断で動いたことを咎められるのかと身構え、罰してくださいと頭を下げるが、そうではなく、陛下を救ったことだ、手柄を立ててくれた、と評価されて、表情が変わる。
※このときの、曹丕ちゃんの表情がとても絶妙。もしもここで理不尽に叱責されたら、一切の期待を捨てることができたのかも? でも、思いがけず褒められてしまったから、まだ父上に愛される僅かな可能性に縋ってしまったようにも見える。
※あるいは、実際に手柄を父上に評価されるという経験を経て、母上が示したような道を選ぶフラグなのだろうか? そのほうが、この後の展開と辻褄は合う気もするんだけど、そうとは思えない顔。
そして、卞氏の考えは本当に正しいのだろうか? 曹操は、曹丕を曹昂の仇と考えたり、積極的に彼を嫌っているというわけではなさそうかな。だからこそ、たまには褒めることもある。しかし、特に手柄を立てているわけでもない曹植を重用しているのに対し、曹丕はどうでもいい存在という感じで放置されているのは事実。そして曹丕本人の認識が正しければ、それは曹昂が死んでかららしい。この親子の確執、まだ何か裏があるのだろうか。