※音曲祭ネタバレと考察(やや長い)
二部冒頭曲の『めでたや(仮)』は付喪神からの予祝なのかなと思ったので→
音曲祭の二部冒頭曲『めでたや(仮)』の中に和歌の要素を見つけたのをきっかけに、歌詞を紐解いてみながら思ったことなどの書き散らしです。
この歌の中で何を祝っているのか、何がめでたいのか、五周年を言祝ぐとともに込められた別の願いについても、想いを馳せてみています。
最下段に歌詞の覚書も載せているのでバレご注意ください。
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曲を通して一番心に残ったのは最後にある歌詞。
「友よ友よ ともに 千年をかねて たのしきをつめ」
今回の音曲祭に込められた想いをとても表していると思っています。映像内の歌詞文字は、体調不良によって降板された丘山さんがご本人による手書きであることを公表されています。
この歌詞自体は、『古今和歌集』大歌所御歌の巻にある和歌からの引歌で、新年を祝うとても縁起の良い歌です。
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新しき 年の始めに かくしこそ 千年をかねて たのしきをつめ
(詠み人しらず/古今和歌集・1069)
意訳:
新しい年のはじめにあたって、このように一同が集い、永き繁栄を心に描きながら、楽しみを積み重ねよう
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引歌とするにしても、数ある希望溢れる未来を願う和歌からなぜこの歌が選ばれたのか、その所以について考えました。
この歌は詞書に『大直日の歌』とあり、元々は大直日神を祭るための歌です。大直日神とは一切の凶事・悪事を転じて吉事とする力を持っている神で、繁栄の神様でもあります。
凶事と聞いてまず思い浮かぶのはここ一年の未曾有の災事のこと。それを治める力を持つ神様を讃える詞を引くことで、彼ら付喪神によって「これまでもこれからも、健やかで、楽しくあるように」という予祝(=めでたや)をしようとしているのではないかと思いました。
予祝とは、前もって祝うことで願いを叶える古来からの習慣です。いまだ苦難を脱していない今現在において、予め明るい未来を祝ってしまうことで実現していこうというわけです。予祝についての詳細は「予祝芸能」などで調べてみてください。
さらに、歌合以降に新しく加わった江や浦島、日向たちを含めて、今年予定されてる公演での活躍を祈念する意味もあるのではないかとも。
個人的には昨年の歌合で祝われる側だった桑名や松井が、今年祝う側に回ったことがとても感慨深いです。
年の初め、五年の歳月を見守り見守られた神様たちから予祝を受けるって、すごいなぁ、と……。
「刀剣乱舞は頑張る女性を応援する」ことをコンセプトに生まれたと言われていますが、まさにその通りで、私自身この公演からも沢山のパワーを貰っています。
また数々の公演に因んだ詞、縁起の良い詞に続いて繰り返される「笑み笑み」からは、歌合の「福福」と同じく、溢れ出る希望を感じます。
マスクが手放せなくなり互いの表情すら窺いにくくなってしまいましたが、笑みを絶やさずにいることの大切さ。カテコで三日月が「笑顔で、また会おう」と挨拶を述べるところにも繋がると思います。
歌詞としては、ほかにも冒頭に「あからひく朝」「霞立つ春」「花細し桜」と枕詞が並んでいるのがとても美しく耳に心地がよくて……。「あかあかき」に続く「赤き我が血潮」は肉体を持ち顕現した彼らの生をまざまざと感じさせられてとても好きです。
先掲の和歌には、 「楽しきをつめ」は「楽しきをへめ」(=楽しい事をやり尽くそう)の誤記であろうという説もありますが、「楽しきを積め」で正としたのも刀ミュっぽくていいですね。
ここからは余談ですが、大直日神についても少し。大直日神は、伊奘諾尊が禊をした際に生まれ出た八十枉津日神の「枉」(不浄、不幸)を直すため、神直日神の次に生まれた神様です。
(出典『古事記』『日本書紀』禊神話)
これまでも刀ミュの演出や歌詞は古事記や日本書紀など日本神話に関連するものが多く、今回も「あかあかと」には「天照らす(天照大神)」が続いています。
過去公演でも、乱舞祭2018の巴の歌詞に「天地初めて発けし時」とあったり、歌合終盤の鶴丸の『かみおろし』も天照大神を祭る『昼目歌』から取られていました。歌合に関してはそもそもイネイミヒタククが迦具土神を表していたわけですが……。
ずっと意味深に扱われている物部も関わってきそうなので今後も一層面白そうです。
上代文学や日本神話はさらっと撫でただけの門外漢なのですが、興味ある分野ではあるので、また色々な発見や考察の楽しみがありそうで嬉しいです。
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『めでたや(仮)』歌詞ざっくり
※不明瞭であまり自信ない部分も多いです
※間違いに気付いたら随時更新します…
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あからひく朝 霞立つ春の初め 花細し桜を愛でる
梓弓春の山辺に 鳴かざりし鳥も 来鳴きぬ
天飛ぶや夢見る心 天翔けるや夢見る翼
めでたやめでたや 始まりの時
めでたやめでたや 走り来し日々
天の海に紫の雲は流れ ひとひらの風 季節を巡る
半座を分かつは青き星 響き渡る泰平の鐘
花笑い楽園色めく 鳥歌い神々は遊ぶ
めでたやめでたや 始まりの時
めでたやめでたや 走り来し日々
あかや あかあかや
あかあかと あかあかと 天照す
あかや あかあかや
あかあかき あかあかき 我が血潮
うつくし うるわし いたわし
のどけし たおやか 笑み笑み
いとおし いつくし かしこし
ろうたし のびやか 笑み笑み
花笑む 打ち笑む 片笑む 笑み曲ぐ
笑み笑み栄ゆ 笑み笑み広ごる
あゞ
めでたやめでたや 始まりの時
めでたやめでたや 走り来し日々
めでたや めでたや 始まりの時
あからひく朝 霞み立つ春の初め
友よ友よともに
千年をかねて 楽しきをつめ
(2021.1.14 本文追記.歌詞修正)